失われた「民泊文化」|不動産|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2016.09.07

失われた「民泊文化」

失われた「民泊文化」
3年前の民泊と最近の民泊ではサービスの質が違う。
 外国から日本に来る人にとっては、ホテルの場所までの道案内は非常にわかり難い。
 今、多くの民泊運営の会社では、写真による道案内だけでなく、事前にお客様に動画でホテルまでの案内を送っている。これによって旅行客は道を間違えることがない。
 また、入居日までに6回から8回ほど利用者と打ち合わせをするのが一般的で、事前に十分なコミュニケーションが取られているといえる。
 現在の民泊では、事前に利用者の要望があれば観光地のレストランの予約までするところもある。
 私が民泊で一番良いと思っているところは、チェックイン、チェックアウトに時間がかからないことだ。
 これらは従来のホテル利用を超える利便性だ。
 勝ち組民泊会社が一番力を入れていることが、『お・も・て・な・し』なのである。
 高級ホテルにも劣らないお客様へのサービスと設備を有した部屋が、高級ホテルの5分の1程度の利用料で使用することが出来る。
 これはつまり、民泊は従来のホテルへの宿泊の代わりではなく、新しい宿泊文化の発生であったと思う。
 しかし、その民泊文化が終焉を迎えるかもしれない。
 今回、民泊の生の声を聴いていただこうと、100室以上運営する会社に取材を行った。
 外国人のコールセンター対応スタッフも10名以上有する民泊会社である。
 以下がその運営会社の方が語る民泊の現状だ。


『民泊業界の─ 現状を語る!!』
民泊を行ったうえでのトラブル事例

 ひとつ目は、ゲストの案内です。ゲストが日本についた後、入室までスムーズに行かない事が多々あります。空港に迎えに行くことがないため、ゲストは電車やバスを乗り継いで行かなければなりません。道を聞かれた日本人の方から電話がかかってくることがよくあります。日本人の優しさを感じます。
 中には、駅から動かずに迎えに来てほしいためにわざと道がわからないと連絡するゲストもいます。また、鍵の受け渡しが困難な時もあります。郵便ポストを使い、鍵を取っていただくのですが、ポストの解除の仕方がわからずに電話やメールが来ます。英語の通じないアジア系の方であると、現地まで駆け付けなければ解決できないことがあります。
 ふたつ目は、宿泊施設の設備に関するトラブルです。ゲストは日本語で説明された家電の使い方がわかりません。設備の使い方がわからなかったり、また洗濯機が故障したり、電球が切れることなどもあります。こういったトラブルは深夜に起こることも多く、夜中の1時や2時に駆け付けて対応することもしばしばあります。
 しかし、皆様が思うほど近隣住民とのトラブルは直接的には多くありません。

 ゲストが快適に日本での旅行を過ごすために事前に起こりそうな問題は対応しておき、ゲストの要求にはなるべく応え、緊急時は駆け付けて対応します。日本のおもてなしの心を感じていただきたいです。そのために、機械的なやり取りのみではなく、メールや電話のコミュニケーションを友好的にとります。〝必要ではない会話〟をいかに増やすことができるかが鍵となります。
 売上を出すためには、ガイドやコミュニケーション以外に部屋創りが非常に重要です。色合いや、家具の配置、特に清潔感を意識した創りを心掛けています。清潔感を保つために清掃は怠ってはいけません。ゲストはホテルに泊まりにくる感覚で訪れます。髪の毛やシーツの汚れ、水垢など、徹底的に清掃することが、良いレビューのポイントです。
 また、近隣住人に迷惑を掛けてはいけないことも心得の一つです。毎度出る大量のゴミの分別を守ることや、夜中に騒がないようにゲストに伝えることは必須です。運営前に挨拶をしておくのも近隣住人とのトラブルを防ぐひとつの手かもしれません。

 民泊の発展が、日本経済の向上のため外貨を取り入れる良い機会であると考えています。国家戦略的にも、日本を観光大国にするため、ホテルやその他の宿泊施設に変わる新たな宿泊手段として利用していただきたいです。
 運営者側としては、第一に近隣住人の安全性に気をかけ、問題なく運営できる状態を作らなければいけません。
  運営者としての資格が設けられたり、条件が必要になることが予想されます。

◆意見をいただいた運営会社◆
代表者 25歳(1991年生まれ)民泊運営期間1年

 また、右記の運営会社を通じて、実際に民泊を利用したゲストの方からの声も聞いた。

利用者緊急アンケート『120組に聞きました』

 実際に民泊を利用された方の生の声を120組のゲストにアンケート調査したところ、デザインがとてもお洒落という声が一番多かった。実際のチェックアウト後のメッセージでも、「とても素晴らしい部屋に泊まれて、感謝しています」「日本に来るときはもう一度この部屋に泊まりたい」など、価格の安さと同等かそれ以上にデザインの良さをゲストは気に入ったようだ。
 また、地元のディープなレストランの紹介や観光地の案内、家電の追加など、ホテルでは行なってくれない対応への感謝があった。

 宿泊の増加を図るためには、ゲストの良いレビューは書かせない。ゲストからの無理な要望にもできるだけ応えることに価値があると考え、運営者は必死で対応している。


民泊利権のゆくえ

 民泊利権は、新たな収益源を増やしたい不動産業界と供給を減らすことによってホテル価格のつり上げを狙うホテル業界双方の利権の取り合いとなった。結果、ホテル業界の圧勝となった。
 残念なことは、観光大国として観光客目線での法案が出されなかったことである。
 世界で進む民泊文化を取り入れられなかった日本。サービスを拡充すること無く、高いホテル料金を払わされる観光客。日本人でも高いと思うホテル代金をこれから更に値上がりした時、観光客の満足と再訪は得られるのだろうか?
 不動産業界も、大義名分を観光大国としての満足度、という捉え方で示していれば、簡易宿泊の緩和等でも対応出来たのではないかと思う。
 自由経済ということを考えると、サービスが充実し安い所が選ばれるという結果であった方が、新しい産業を生んだのではないかと思うと残念でならない。


民泊終焉・飛び火する出資企業の悲劇

 民泊終焉に伴って、上場企業や金融機関のあちらこちらで株主訴訟の対策に追われはじめている。
 民泊が、今後事実上分譲マンションでの運営が難しくなったり、180日の規制や地域の規制などにより運営が出来なくなった。結果、収益を確保しようと一部企業は簡易宿泊に舵を切るが、それは、事実上の民泊というビジネスモデルの終焉であろう。
 現在、一番困っているのが、現在の民泊が法律的にグレーだと分かりながら融資をしてきた金融機関や出資企業だ。
 今回、現在のやり方が違法であるという法律が出来る以上、当然、出資・融資企業は、なぜ法的にグレーの会社に出資したのかを問われる。また、今後拡大すると民泊の利益を見込んでいた企業の想定利益の減少は、当初出資する時の判断に誤りがあったとしかいえないことを示す。
 そして、簡易宿泊というビジネスモデルで上場するということになれば、当初の民泊によって上場する計画からすると本末転倒である。
 これから、株主訴訟を恐れて融資や出資を引き上げたい金融機関や投資会社と、それを阻止して無理やりでも上場に持って行かなくてはならない企業の駆け引きが始まる。


上場企業の書類送検


 7月13日、JASDAQ上場企業であるオフィス用品販売のピクセルカンパニーズとその子会社ハイブリッドファシリティーズ2社と役員ら6名が書類送検された。旅館業の許可を得ずに賃貸住宅で民泊を運営していたとして旅館業法違反での摘発である。
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