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豆知識

2017.08.10

敷金は家賃を担保するものと定義 自然損耗の修繕費を請求するのはNG

敷金は家賃を担保するものと定義 自然損耗の修繕費を請求するのはNG
オーナーと入居者のトラブルの火種となる、「敷金」の定義を明確にするためのルールが決まった。今後3年以内に施行されるという、民法改正案について検証した。
「敷金」の定義について、きちんと説明できる方はそれほど多くないと思います。「家賃滞納を補填するために、賃貸契約の際に家主に預けるお金」だと認識しているかもしれませんが、滞納を一度もせずに退去したら必ず全額返金されるかと言えば、そうでない場合もあります。「汚れた壁のクリーニング代」や「傷付いた床の補修費」として、あれこれと差し引かれ、丸々手元に戻ってくることの方が少ないかもしれません。結局のところ、敷金の定義そのものがいつの間にか曖昧になってしまっているのです。曖昧であるが故に、原状回復関連のトラブルは後を絶たず、賃貸経営における家主・管理会社の大きなリスクとして常に付きまとってきました。
 こうした現状を改善すべく、政府は5月26日に「民法の一部を改正する法律案」を成立させました。賃貸人の敷金返還の内容や、通常損耗が原状回復義務にあたらないことなどを明確化することで、原状回復トラブルを減らし、消費者である入居者を保護するとともに、賃貸業界を健全化していこうというわけです。
 では、具体的にどんなことが変わるのでしょうか。要点は主に4つ、①「『敷金』という項目の策定」②「定義、返還の時期、範囲などを規定」③「契約終了時に原則として返金」④「経年変化による補修費用を負担する必要がないことの明記」です。これにより、敷金は「家賃を担保するもの」として定義付けられることになります。これまでのように、敷金から自然損耗分のリフォーム費用を差し引くことは、原則できなくなります。入居期間中に家賃の滞納が一切なければ、預かったお金はそのまま全額返金しなければいけなくなります。経年変化による補修費ももらうことができなくなくなるわけですから、例えば日光による畳や壁紙の焼けや、ベッド置き場の床の痛みなどは、すべて家主負担で直さなければいけません。ただし、故意による傷みについては、もちろんその修繕費用を入居者に請求することができます。壁に穴を開けてしまったり、あるいは子供が落書きしたりした場合などです。
 入居者にばかりメリットがあるように思われるかもしれませんが、「敷金」の曖昧さが解消されことは家主にとっても十分にメリットのあることだと思います。これまでは定義が曖昧だったからこそ、それを逆手に取り何でもかんでも敷金から捻出しようとしていたに過ぎません。入居者と家主で、負担すべき範囲が明確化されることで、余計なトラブルが起こるリスクはなくなります。敷金返還や原状回復のトラブルは、金銭だけでなく、精神的な負担にもなります。ましてや裁判沙汰にでもなれば、評判も下がり、入居率にも悪影響が出るかもしれません。「敷金」の定義の明確化は、こうした家主のリスクの解消にもつながるのです。
 念のため付け加えておきますと、退去時のハウスクリーニング費用については、契約時に特約として明記しておくことで敷金から差し引くことができます。
 改正法の施行は、公布後3年以内ですが、具体的なスケジュールは現段階では発表されていません。いつになるにせよ、施行されてから対応するのではなく、今のうちから少しずつ新しいルールに対応する準備を進めていくことをお勧めします。