真説 賃貸業界史 第35回~沖縄県内屈指の軍用地地主「沖縄土地住宅」~|住生活新聞 記者の目|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2021.01.11

真説 賃貸業界史 第35回~沖縄県内屈指の軍用地地主「沖縄土地住宅」~

真説 賃貸業界史 第35回~沖縄県内屈指の軍用地地主「沖縄土地住宅」~
20億円を超える売上の大部分が地代収入

 かつてわが国には、「超」が付く大地主が各地に点在していた。成り立ちはさまざまだが、そのほとんどは戦後の農地改革よって大半の土地を失い、今も地主として事業を展開しているのはごくわずかだ。今回は、戦前から今に至るまで大地主であり続ける極めて稀な存在である沖縄土地住宅についてまとめた。

 「沖縄土地住宅」という会社をご存知だろうか。名前から分かる通り、沖縄にある不動産会社だ。おそらく沖縄に住んでいる方のほとんどが知っている会社だが、非上場であるため、県外ではそれほど有名ではない。実はこの会社は、沖縄県を代表する大地主だ。
 大地主と言っても、大きな田んぼや畑を所有しているわけでもなければ、たくさんのアパートやマンションを経営しているわけでもない。沖縄土地住宅が所有しているのは、いわゆる「軍用地」と呼ばれる土地だ。
 「軍用地」とは、自衛隊基地や米軍基地として使用されている土地のことだ。行ったことがある方はお分かりだと思うが、沖縄本島は小高い山が非常に多く、平野部分が少ない。限られた平野のほとんどは民間が所有しているため、国は基地を作るために民間から土地を借り上げている。当然、国と土地所有者は賃貸借契約を結んでいるため、国は所有者に対して借地料を支払っている。借り主が国なのだから、これほど安全なことはない。滞納もなければ、夜逃げされることもない。しかも借地料は、毎年複利で約1%ずつ上昇するそうだ。「こんなに旨味の大きい投資はない」と、最近は投資家の間でも人気が沸騰している。
 沖縄土地住宅が所有しているのは、嘉手納基地として使用されている土地の一部だ。一部と言ってもその広さは広大で、なんと約115万坪(約380ヘクタール)にもなるという。例のごとく、分かりやすく東京ドーム(4.6ヘクタール)で換算すると、約83個分に相当する。今の時代、これだけ広大な土地を所有する民間会社は、そうはないはずだ。
 実際、軍用地から上がる地代収入は莫大で、同社の事業収入の多くを占めているそうだ。非上場企業のため、直近の業績は不明だが、2006年には、法人所得を21億3499万1000円と申告している。これは、沖縄県全体で7位の収入だという。ちなみに、2005年3月期は、売上高が約26億円、純利益が11億1400万円だった。純利益率が異常に高いのは、経費がほとんどかからない土地貸しによる売上比率が高いからであろう。
 なぜ、沖縄土地住宅がこれほど広大な土地を所有しているのか。その由来は、同社の親会社である沖縄製糖や、戦前の台湾製糖にあると言われる。詳細は不明だが、おそらくは、製糖に必要なサトウキビを大量に栽培するために取得した広大な土地が、戦後になって軍用地として借り上げられたものと思われる。農地改革で土地を召し上げられなかったのは、戦後しばらく、県がアメリカに直接支配されていたことが関係していたのかもしれない。
 沖縄土地住宅は沖縄製糖以外にも、沖縄海邦銀行(2位株主)、沖縄銀行(第4位株主)、オリオンビール(第4位株主)など、多数の県内有力企業に出資し、沖縄県経済界に大きな影響力を持っている。まさに名実ともに、沖縄を代表する名門企業だ。
 ちなみに、軍用地地主は全部で約4万3000人いると言われている。最初はもっと少なかったそうだが、相続の過程で土地の細分化が進み、徐々に増えていったという。一地主当たりの平均地代年収は約200万円。ほとんどの地主は、一戸建てが建つぐらいの広さの土地を所有しているのだと推測される。沖縄土地住宅は、異例な存在だというわけだ。
 前号、前々号と合わせ、計3回にわたり、日本の大地主を取り上げてきた。もちろん、本紙で取り上げた以外にも、日本各地には数多くの大地主がいた。機会があれば、また取り上げてみたいと思う。