真説 賃貸業界史 第36回~一大ブームを巻き起こした戸建賃貸住宅~|住生活新聞 記者の目|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2021.02.08

真説 賃貸業界史 第36回~一大ブームを巻き起こした戸建賃貸住宅~

真説 賃貸業界史 第36回~一大ブームを巻き起こした戸建賃貸住宅~
最盛期には200社以上が自社商品を販売

 アパート、マンション、タウンハウス、etc…、賃貸住宅にはさまざまな形態がある。持ち家感覚で住めることや駐車場が付いていること、生活音を巡る隣家とのトラブルを気にする必要がない点などが評価され、特にファミリー層を中心に高い人気を誇っている戸建賃貸住宅もその一つだ。今回、一大ブームを巻き起こした戸建賃貸住宅の歴史を追った。

 今でこそ、市場にすっかり定着した感のある戸建賃貸住宅だが、一体いつ頃、世に中に広く普及したのか?きっかけは、今を遡ること15年前、2005年に都内で設立されたハイアス・アンド・カンパニーという会社が、四角い箱(キューブ)型の外観形状を特徴とした戸建賃貸住宅の建築ノウハウをパッケージ化して、全国の工務店を対象に販売したことだった。
 もちろん、それよりも以前から、戸建住宅の賃貸は普通に行われていた。ただし、昔の戸建賃貸は、転勤や引っ越しに伴い、持ち家を転用したものに過ぎず、最初から賃貸することを目的に建てられたものは、非常に珍しかった。かつては、賃貸と言えばアパートやマンションのような集合住宅が当たり前で、あえて戸建を建てて人に貸そうと考える人はほとんどいなかった。
 話を戻すが、なぜハイアス社が戸建賃貸住宅という、それまでにない新しいカタチの賃貸住宅に目をつけたのか?実は、同社が売り出したキューブ状の戸建賃貸住宅を最初に考案したのは、福岡にある建築設計事務所だったと言われる。ある地主から「郊外にある土地に賃貸住宅を建てたい」という依頼を受け、その結果、考案されたのが、箱型の戸建賃貸住宅だった。今でこそ、箱型のデザインは注文住宅などでもよく見られるようになったが、当時としてはまだ非常に珍しく、しかも賃貸では皆無だった。斬新なデザインは瞬く間に評判となり、周辺相場よりも高い家賃設定だったにもかかわらず、すぐに満室になったそうだ。
 このデザインナーズ戸建賃貸住宅に、何人かの不動産関係者も注目した。その一人は、長崎県で土地活用のコンサルティングなどを手掛けていた坂本誠志氏だ。坂本氏は、かつて大手ハウスメーカーで、九州エリアの支社長を務めたこともある人物で、福岡で戸建賃貸を見るや否や、一目でその将来性を見抜いた。すぐに、自らもデザイナーズ戸建賃貸住宅を商品化し、長崎県を足掛かりに土地活用の提案を開始した。
 一方で、坂本氏と同じように戸建賃貸の可能性を見出し、全国展開に踏み切ったのが山口県に本社を置く安成工務店の社長、安成信次氏だ。2004年、自社商品として「ユニキューブ」を開発し、かねてから懇意にしていたコンサルタント、濱村聖一氏が設立したハイアス社と組んで、全国の工務店・建設会社にパッケージ商品として売り込んでいった。
 「ユニキューブ」は世に出るや否や、瞬く間に全国へ広がり、不動産・建設業界で一大ブームを巻き起こした。類似商品も多く登場し、「○○キューブ」がネット上に溢れた。もっとも多いときで、大手、中小を含め、200社を超える業者が、オリジナルと謳った戸建賃貸を販売していた。
 だが、ブームはいつまでも続くものではない。業者の数がいくら増えても、それを必要とする地主の数は限られていた。業者間の競争だけが熾烈化した結果、10年も経たないうちに、力のない業者は淘汰されてしまった。ネット上では、今でも100社近くの業者が戸建賃貸住宅を取り扱っているが、実際に販売実績がある業者はそのごく一部だけだ。実際は、「掲載したもののまったく売れない」「とりあえず商品として扱っている」程度の業者が大半だ。