真説 賃貸業界史 第39回~ファンド資金流入でバブル再来と言われた4年間~|知識・教養|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2021.06.14

真説 賃貸業界史 第39回~ファンド資金流入でバブル再来と言われた4年間~

真説 賃貸業界史 第39回~ファンド資金流入でバブル再来と言われた4年間~
投資物件開発にのめり込む不動産業者が続出

 2004年から2007年にかけて、日本の不動産市場はファンドバブルに沸いた。その間、多くの企業が一攫千金を狙って賃貸市場に参入し、そして2008年に起きたリーマンショックを境に、その大半が姿を消していった。今回は、ファンドバブル期の賃貸業界の動きについて見ていく。
 バブル崩壊後、日本の不動産市場は長い低迷期に突入した。再び市場が活性化したのは、バブル崩壊によって安く売却された土地や建物を、国内外の不動産投資ファンドが積極的に買収し、それによって周辺の不動産価格が上昇する「ファンドバブル」と呼ばれる現象が起きてからのことだ。2004年以降、日本の不動産市場は再び、バブル期を彷彿とさせる狂喜乱舞の時代へと突入した。
 この時代、好調な市場を象徴するかのように、多くの不動産業者がファンド向けの投資物件の開発に夢中になった。もともと開発事業を主力としていた不動産会社はもとより、建売業者、賃貸管理会社等々、不動産ファンドに魅せられた業者の数は、かなりの数に上った。

「いくら開発しても次から次にファンドから『他にもないのか?』と声がかかる」
「ほとんど言い値で買ってくれるから、土地の仕込みで大忙しだ」
「多少、土地の仕入れにお金がかかっても、買値がすごいから結構な利益が出る」

当時、投資物件の開発にのめり込んでいた不動産業者は、みな口を揃えてこう言っていたものだ。その象徴的な業者として、しばしば名前が挙がるのはエスグラントコーポレーションやリプラスだ。前者は会社設立からわずか4年で名証セントレックスに株式上場を果たす。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで急成長を遂げ、ファンドバブルが本格して以降は、事業の多角化にも積極的に取り組んだ。しかし、急な事業拡大がたたり、リーマンショックが起きた翌年、あえなく経営破綻した。
 後者のリプラスはもともと、家賃債務保証で名を挙げた会社だが、一方で事業開始直後から不動産開発にも意欲的で、その結果、設立からわずか2年後の2004年に東証マザーズへの上場を果たした。しかし、リーマンショックを機にファンドバブルがはじけると、途端に資金繰りが悪化。2008年7月に、家賃債務保証事業における送金の遅延が発覚して以降は坂道を転げ落ちるように業績は悪化の一途を辿り、同年9月に破産した。創業からわずか6年、上場も早かったが転落も早かった。
 不動産開発会社とともに、ファンドバブルに乗じて名を挙げたのが家賃債務保証会社だ。この時期に誕生した家賃債務保証会社の数は、100社とも150社とも言われる。しかし、その半分以上は、今は存在しない。ほとんどはリーマンショック直後に事業停止に追い込まれた。
 なぜ、家賃債務保証会社の多くが、ファンドバブル崩壊とともに消えてしまったのか?それは、ファンド向けの物件開発が盛んに行われたことに密接に関係している。ファンドに対して家賃収入を保証しているサブリース会社は、入居率を上げなければ、自費で家賃を支払わなければならない。1室、2室であれば大した負担にはならないかもしれないが、そもそもファンドが投資する物件は規模が大きい。仮に入居率が5割ということになれば、サブリース会社は毎月100万単位のお金を垂れ流すことになってしまう。ファンドに物件を卸しても、これではすぐに利益が吹き飛んでしまう。かといって、滞納リスクのある人物を入居させるわけにはいかない。そこで利用されたのが家賃債務保証会社だ。多少、入居審査を甘くしても、滞納リスクを家賃債務保証会社に負わせてさえいれば、サブリース会社は家賃を取りっぱぐれることはない。家賃債務保証会社側からしてみれば、リスクはあるものの、ファンドクラスの物件の家賃債務保証をするのであれば実入りも大きい。景気的にも滞納がそれほど頻発するとは思えない。家賃債務保証会社間での競争が激化したことも拍車をかけた。結果、「どんな入居者でも保証する家賃債務保証会社」こそ、使い勝手の良い会社だという誤った認識が業界内で広まり、保証会社サイドもそれに応えようと、何でもかんでも引き受けるようになった。
 こんな状況のときにファンドバブルが弾けた。景気は一気に悪くなり、企業も次々に倒産。家賃滞納率も急激に上昇し、リスクを一手に引き受けていた家賃債務保証会社は耐えきれなくなり、次々に経営破綻していった。リプラス、VESTA、オーガナイザー保証等々、ファンドバブルを追い風に名を挙げた家賃債務保証会社の多くが、短期間の間に次々と姿を消していった。
 ファンドバブルによって、日本の賃貸業界は大きな恩恵を受ける一方で、多くの起業家たちが一獲千金を夢見て旗揚げし、無残に散っていった。また機会があれば、別の切り口からファンドバブルと賃貸業界の関係について見ていきたい。