真説 賃貸業界史 第44回「2000年代初頭に最盛期を迎えた家賃債務保証ビジネス」|住生活新聞 記者の目|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2021.11.08

真説 賃貸業界史 第44回「2000年代初頭に最盛期を迎えた家賃債務保証ビジネス」

真説 賃貸業界史 第44回「2000年代初頭に最盛期を迎えた家賃債務保証ビジネス」
リーマン・ショックを機に、業者の淘汰進む

 現代の賃貸経営において、家賃債務保証は不可欠なサービスの一つだ。その歴史はわずか30年足らずと短いものの、その間に多くの会社が作られては消えを繰り返してきた。今回は、家賃債務保証乱立時代を振り返る。

 家賃債務保証サービスが不動産業界内で広く認知されるようになったのは、1990年代の中盤以降のことだ。有料で保証人を引き受けてくれる保証人代行というよく似たサービスはもっと以前からあったものの、そもそもの目的が家賃債務保証とは大きく異なる。保証人代行は、部屋を借りる際にさまざまな事情で保証人を立てられない人のためにあるもので、その名の通り「有償で保証人を引き受けてくれる」サービスだ。一方で家賃債務保証は、入居者が加入する形を採ってはいるものの、家賃滞納のリスクを軽減してくれるという点から考えれば、本質的には貸主のためにあるサービスだと言える。
 そんな家賃債務保証サービスは2000年代に入って最盛期を迎えた。北は北海道から南は沖縄まで、全国各地で次々と新しい会社が設立され、その数は最も多いときで300社を超えていたと言われる。個人が始めた会社もあれば、金融会社が母体となって始めた会社もあった。中にはリクルートフォレントインシュア(現オリコフォレントインシュア)のように、大手企業が参入したケースもあった。当時、賃貸仲介会社の店頭には、家賃債務保証会社のパンフレットが何社も並べられていたものだ。
 なぜ、家賃債務保証ビジネスが盛り上がったのか。最大の理由は、その収益性の高さにあった。家賃債務保証ビジネスは、始める際に元手がほとんどかからない。滞納が発生した際に弁済が生じるため、ある程度の資金が必要だと思われがちだが、それはすべて加入時に入居者から徴収する保証料で賄うことができる。自己資金を使う必要はない。そもそも、弁済はあくまでも一時的なもので、立て替えた分は後で入居者から回収する。夜逃げや破産などで、未回収に終わることもあるが、その確率は5%にも満たない。元手でいらずで、しかも入居者から徴収する保証料のほとんどが利益になるというのだから、誰もが飛びついて当然だ。 しかし、家賃債務保証ビジネスのピークは長くは続かなかった。
 2008年、アメリカの投資銀行、リーマン・ブラザーズ・ホールディングスが、住宅市場の悪化に伴う住宅ローン問題で経営破綻し、連鎖的に世界規模の金融危機が発生した。いわゆる「リーマン・ショック」だ。日本も例外ではなく、経済は大混乱に陥った。不動産価格の下落で多くのデベロッパーが倒産。自動車産業や電機メーカーを中心とする製造業では、大規模な「派遣切り」が行われ、大きな社会問題にもなった。その結果、全国的に家賃滞納が大発生した。事故率も想定の範囲を大幅に上回るようになり、家賃債務保証会社の資金繰りは一気に悪化した。状況は一変し、今度は家賃債務保証会社の倒産が相次いだ。
「家賃債務保証会社の倒産」という話になると、当時、最大手と言われていたリプラスという会社がしばしば登場する。確かにリプラスは家賃債務保証事業を主要事業の一つとして行っていたが、倒産に至る過程は、他の家賃債務保証会社と少々異なる。同社は、入居者から徴収した保証料を不動産に投資していた。それにより売上規模を一気に拡大させ、会社設立からわずか2年で東証マザーズ上場という、離れ業をやってのけた。しかし、結果的にこれが首を絞めることになった。過度に不動産に投資した結果、いざというときに資金が枯渇してしまい、創業からわずか6年で経営破綻した。破綻時に負債総額が325億7000万円あったことからも、不動産投資に対する依存度の高さがよくわかる。上場まで早かったが、破綻もまた早かった。経営危機が報じられた当初、姜裕文社長は業界紙のインタビューで「AIGも潰れることはある」とコメントした。世界的な保険会社が潰れることもあるのだから、うちが潰れたってしょうがないだろうと意味で発した言葉だったのかも知れないが、例えとはいえ、実際に倒産していないAIGからしたらとんだ迷惑だったに違いない。コメントを掲載した業界史には後日、AIGからクレームが入ったそうだ。
 話を戻す。いずれにせよ、2000年代に突如として沸き起こった家賃債務保証会社の設立ブームは、リーマン・ショックで一気に下火となり、その後、資本力のない会社は次々に倒産、あるいは他社に吸収されていった。先述したリクルートですら、会社をオリコに売却して事業から撤退している。
 現在、家賃債務保証会社の多くは、ビジネスの健全化と発展を目的に設立された2つの外郭団体「家賃保証事業者協議会」「(一社)全国賃貸保証業協会」のいずれかに所属している。両団体の会員数を数えるとざっと100社程度だ。最盛期からすると半分にも満たない。もちろん、いずれにも所属していない会社もあるだろうが、それを含めても150社にいくかどうかだ。かつての繁栄ぶりからすると、いかにも寂しくなった印象だ。