闘将野村「新経営論」第23回|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2019.04.01

闘将野村「新経営論」第23回

-以前にお会いさせて頂いたときは、「息子さんと昨日、大喧嘩したんだよね』というお話をされていました。お金があってする喧嘩は、色々複雑な事情が絡んでいたりするものなのですか。

野村 そんな金で揉めたことはないけど。喧嘩したのは、息子から「父親らしいこと何もしてもらってない」とか言われたからだよ。そんなこと言われると思ってなかったから、言われてみればそうかなと思って。

-休みの日に一緒に遊びに行ったりしたことはなかったのですか。

野村 一切しなかった。

-野球を教えたことは。

野村 リトルリーグにいたからチームの指導に行ったりはしたけど、個人的にはしてないよ。

-キャッチボールとかはどうですか。

野村 そういうことじゃないの。

-つまり、一緒に遊んだ記憶がないということなんですね。そうすると休みの日には何をされていたのですか。

野村 子供が学校行ってるときは寝てるし、帰ってきても夜遅いから寝てる。

-お子さんは当然、お父さんのプレーをテレビで観たり、ニュースで観たりしていたわけですよね。

野村 それはしているだろ。「野球やる!」と言ったときも大反対したんだよ。

子供にとって、ブラウン管の中に映る父親は尊敬できる存在で、自慢もできたはずだ。しかし、お金に困らなかったからと言って、それで不自由のない生活が送れたかというと、必ずしもそうではなかったのかもしれない。父親に甘えられない、遊んでもらえないという状況は、子供にとってはとても淋しいことだったのだろう。

「父親らしいことは何もしてもらっていない」

怒りの言葉ではない。甘えたかったという言葉の裏返しである。

-いくつくらいのときに「野球やる!」と言い出したんですか。

野村 中学。

-最初、反対した理由はなんでしょうか。

野村 素質がないのよ。専門家だから分かるじゃん。「お前無理だ!」って言ったのよ。俺に似ず、母親に似ちゃってるから。

-努力とかでも無理だなということですか。

野村 素質が無いから無理だよ。だから堀越高校から明治大学まで野球ずっとやってて、12球団のスカウトがどっからも来てないんだよ。素質があればどこか1球団くらい来てるよ。「諦めて一般社会のサラリーマン行け!」って言ったら、「嫌だ!どうしてもプレーしたい!ダメでも後悔はしないって!」って言うから。それで当時のヤクルトの相馬社長に頼んでOKしてもらったんだ。それがいまだに生き残ってるんだから分からんわな。

-その時の正直な気持ちは親心なんですか。

野村 親心だろうな。やっぱり間違った道は行ってほしくないから「野球では飯食えない!」と大反対したんだ。

-それは父親に対する憧れもあったんでしょうね。

野村 そうだろうね。実際に本当に野球好きなんだ。

-親としては、自分に憧れてもらえているというのはすごく嬉しいことじゃないのですか。

野村 俺に憧れてるんじゃなくて、プロ野球に憧れてるんだよ。でも、それは聞いてないから分からないけど、同じキャッチャーやってたからもしかしたら俺に憧れてなのかも分かんない。

-そういう話しは普段あまりされないのですか。

野村 しない。

大人になると自分で自分自身の能力の限界に気付く。能力がなくても野球に執着する理由。当然、父として、そして監督としての背中を見てきたからに他ならないだろう。成功者だけが幸せとは限らない。親に憧れの気持ちがあっても、なかなか口に出しては言えないものだ。

-監督は成功されて今は評論家をされていますが、30歳くらいで野球を辞めてしまうとその後の人生の方が長くなります。経験上、そういう方々はその後、どんなふうに生きていけば良いと思いますか。

野村 みんながみんな、監督やコーチになれないからね。野球選手は引退してからが大きな問題だ。
一般的に一番いい年齢で辞めてそこで失業したら大変だよ。


-そうですよね。選手が引退するときに、その後の進路を相談されたりすることもあるのでしょうか。

野村 一応あるかな。

-そのときはどんなふうに答えるのでしょうか。

野村 俺は力がないから謝るばっかりで、「球団に頼むくらいならできるから」って言う。でもコーチでも何でも枠がありますから。そんなみんながみんなできないですからね。

-球団ショップとかに行く方もおられるのですか。

野村 そういうのに行く奴もいる。若い人や子供には言うんだけど、「プロ野球選手にだけはなるな!」

-そうなんですね。普通は野球教室とかでがんばって練習して、「将来はプロ野球選手になれ」という考え方ですよねえ。

野村 俺は逆で「なるな!」って言う。

-それはプロ野球選手は将来を保証されてないという意味ですか。

野村 松井みたいなのがいれば「プロを目指せ」と言うだろうけど、それ以外はいい商売じゃないよ。

-今はお孫さんとかには会われたりするのですか。

野村 裏に住んでるもん。俺、土地があってね。息子が結婚してから、東京で土地から買って家建てると大変だからって半分取られちゃった。同じ敷地に家建てたから。

-お孫さんと頻繁に会えるのであれば、それはそれで嬉しいですよね。

野村 「おーい!」と呼べば声が届くくらいの距離だから。

土地を半分取られてしまったというのは、照れもあると思うが、隣に自分の息子が住んでいて、そして孫も住んでいるという状況は、息子さんの親孝行なのではないだろうか。
会社を経営されている社長の中は、「なかなか家に帰れない」「子供と遊んでやれない」という人も多い。ただ、そんな社長である父を子供は尊敬もしているし、逆に淋しい思いをしていることもあるのだなということを忘れてはいけないと思った。