相続不動産相談所「相続税申告が誤りだと指摘され追加納税」|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
おすすめ

2019.05.13

相続不動産相談所「相続税申告が誤りだと指摘され追加納税」

相続不動産相談所「相続税申告が誤りだと指摘され追加納税」
税務署と税理士事務所で異なる見解

 相続税申告後、改めて税務調査が入ることがあるのをご存知でしょうか?税務調査が入る以上、申告上の不備を何か指摘されて相続税が増額される可能性があるわけですが、指摘されたことのすべてが正しいとは限りません。中には改めてこちらの見解を主張し、相続税の返金に成功したケースもあります。今回は相続税還付の事例をご紹介します。

 都内で相続税を専門的に手掛けているY税理士事務所のもとにAさんが訪ねてきたのは2010年。相続税申告後に税務調査に受け、追加で税金を納めた後のことでした。長年懇意にしてきた税理士の先生に任せて相続税の申告を行ったにもかかわらず追徴課税されたことに、Aさんは納得がいかず、知り合いに相談したところY税理士事務所のことを教えてもらい、訪ねてということでした。
 すでに税務調査まで終わっているので、ここからさらに申告内容を見直したところで結果が変わることはないだろうと思うのが普通です。ところが、必ずしもそうとは限りません。相続申告書を細かく見直してみると、意外な盲点が見つかることがたまにあります。それほど相続というものは案件によって内容が異なり、色々なケースを想定しなければならないものなのです。豊富な知識や経験が必要になるので、馴れていない方が下手に手を出すと必ず失敗します。Y税理士事務所はこの30年の大ベテラン、それゆえにAさんのケースでも気になる点を見つけることができました。
 Aさんの相続税申告書の中で気になったのは、貸家建付地に不動産評価に関する箇所でした。“貸家建付地”という言葉を初めて聞いたという方のために補足しておくと、これは賃貸用の建物が立っている土地を指します。ご自身の土地に相続税対策でアパートやマンションなどの賃貸住宅を建てている場合、その土地は“貸家建付地”となります。この土地に対する評価の計算方法は、

自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃貸割合)=評価額

となります。借地権割合とは、対象となる土地の中に含まれている借地権の割合を示すもので、土地ごとに異なります。一方、借家権割合とは、対象となる土地に建っている建物にどれだけの借家権が存在するかを示すもので、一律30%と定められています。また、賃貸割合とは、賃貸されている割合を示すもので、いわば全戸を賃貸している場合は100%、一部の場合はそれに応じた割合で計算します。

 さて、話を戻すと当初Aさんは、相続税申告書において賃貸割合を100%で申告していました。理由は、貸家建付地に建っていたのが戸建住宅だったからです。一戸建てである以上、賃貸割合は100%以外ありえません。つまり、最初の申告自体決して誤った判断ではなかったということです。ところが税務署は、これを50%とするように指導したそうです。Aさんはやむを得ず、改めて相続税を納め直しました。なぜ、Aさんのケースでは申告した賃貸割合を修正するようにとの指摘がなされたのでしょうか?原因は対象の土地を、被相続人と相続人が共同で所有していたこと対する見解の違いにありました。

(税務署側の見解)
①対象となる土地は被相続人が所有
②その土地に建つ建物の所有権は、被相続人と相続人がそれぞれ2分の1ずつ
③貸家建付地と認められるのは、土地と建物の所有者が一致している部分のみ

この結果、一戸建ての貸家割合は、Aさんが所有権を持つ2分1、つまり50%を判断されたのです。当然ながら、この指摘には誤解があります。そこでY税理事務所も以下のような主張を行いました。

(Y税理士事務所の主張)
①土地も建物も、被相続人と相続人の共有持ち分である
②民法第249条に従い、各共有者は共有部の全部について、その持ち分に応じた使用をすることができる

 ②は少し分かりにくいかもしれないので補足しておきます。Aさんの場合、土地と建物について所有権は確かに2分の1ずつです。しかし、Aさん個人で見た場合、所有している土地に建っている建物の所有権部分はすべて賃貸しているわけですから、賃貸割合は100%と考えるべきだという主張です。
 結論から言うと、今回の事例では最終的にAさん及びY税理士事務所側の主張が全面的に認められることになりました。その結果、追加で収めた相続税も還付されたそうです。解釈の違いと言えばそれまでですが、相続税申告においては何をどう考えるべきか、色々なロジックを駆使する必要があります。税務署側の指摘に対し、適切な反論ができないと、結果的に多額の税金を納めることになってしまいます。相続税還付には期限があります。亡くなってから5年10カ月を過ぎてしまうと、例え反論できる要素が見つかったとしても更正請求を行うことはできません。すでに相続税の申告を済まされた方も、これから申告する方も、相続に関してお悩みをお持ちの方は、お近くの相続不動産実務主任者にご相談ください。