購買心理学から見る『日本経済とプロレス』 (第1回)ゲスト:スタン・ハンセン|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2020.02.03

購買心理学から見る『日本経済とプロレス』 (第1回)ゲスト:スタン・ハンセン

購買心理学から見る『日本経済とプロレス』 (第1回)ゲスト:スタン・ハンセン
今の日本には景気を好循環させる起爆剤がない!

 今回来日して頂いたのは、日本で最も成功した外国人レスラーと言われるスタン・ハンセン氏です。昔は、外国人レスラーと言えば、悪役レスラーという位置付けでした。しかし、それにもかかわらず、ハンセン氏は多くの日本人に愛され、日本人レスラーよりも応援されていました。それには理由があると思い、会社経営に役立つヒントを得るために対談をお願いしました。


-日本の経済成長や会社のマネジメントを、プロレスという視点で話させて頂きます。よろしくお願いします。

ハンセン氏は少し面食らったような顔で、「お役に立てれば良いのですが・・・」。苦笑いである。こんな質問をされるのも最初で最後だろう。

戦後までさかのぼる。

 1952年、力道山が日本プロレスを設立する。翌年、テレビ放送が始まったのを機に、日本国中の街頭テレビに人々が群がった。現代のプロレスとも違う。日本がアメリカ、イギリス、中華民国、ソ連に敗北し、朝鮮半島や満州などの植民地も失い、国も国民も自信を失っている時期だった。そんな中で、テレビに映る外国人レスラーをなぎ倒す力道山の姿は、日本国民の希望であり光だった。当時、そこには日本vs外国という構図があった。

 日本プロレスの盛り上がりと同じように、1954年(日本民主党 第一次鳩山一郎内閣)から日本も高度成長期へ入る。「神武景気」である。朝鮮戦争による特需から、世界経済の好転に伴う輸出の拡大により、企業利益の拡大、それに伴う個人消費の活性化、国内外の好循環による設備投資の活発化による輸入の増加。これらがインフレーションなく行われた。

 2020年現在の、見せかけの好景気と違う本当の好景気循環である。なぜ、同じことが現代では起こらないのだろうか?
当時の日本は、1ドル360円という輸出に有利な円安相場であったため、輸出に関しては安心して設備投資ができた。作れば作っただけ売れた時代だった。一方で、現在は変動相場制のため、国内企業は競争力を得るために、労働賃金の安い国を探してそこに工場を作らなければならない。単純に輸出で景気を上げることが難しい時代なのだ。

 現在、企業の含み益は増えている、しかし、利益の循環が行われない。なぜか?1年先は分かっても、5年後10年後の世界経済が読めないからである。だから企業には10年先の蓄えが必要なのである。

 個人消費が活性化されない理由も2つある。終身雇用が終わり、賃金が右肩上がりにならないことを社員は知っている。老後の資金難も考えると、貯蓄無しでは生活ができない。
もう1つは、当時三種の神器と言われた、テレビ・洗濯機・冷蔵庫のような生活必需品と言われる商品需要がない。今の国民が一番必要なものは携帯電話、これ一つである。これがゆきわたってしまった以上、現段階では経済好循環をさせるための起爆剤になるような商品は見当たらない。

 会社やお店を経営していると、ある一定のところで必ず停滞期というのが訪れる。「いきなりステーキ!」が良い例だ。飲食店舗には500店舗、フランチャイズ店には300店舗前後で一つの壁が訪れる。

 停滞には2つの理由がある。1つはブームの終焉である。「いきなりステーキ!」は最初、テレビやマスコミがこぞって取り上げた。それを見た人々は、「それだけ話題になっているのなら、1度食べに行ってみよう」ということになる。早ければ1年、長くても2年でブームは終わる。ブーム客のうち、そのまま固定客として残るのは、飲食店の場合100分の1程度に見ておく必要がある。100分の1になるわけだから、ブーム終了後は、客数が日に3~5人減ることになる。つまり、ブーム時の50%以下の売上がその店の本来の実力なのである。だから経営者は、ブームを企業の本来の力と勘違いしてはならない。飲食のプロ経営者が、3年から5年で複数の飲食店を展開した後、バイアウトして収益を得るのはこれが理由にある。ブームは長く続かないことを知っているのだ。

 もう一つは、業界の構造的な問題だ。ラーメン店「幸楽苑」、2020年1月に51店舗閉店。2019年には「ミニストップ」が193店舗閉店。「セブン-イレブン」は約1000店舗閉鎖。平成15年に986店舗あった「不二家」は、わずか3年で124店舗も減少。「ほっともっと」は直営190店舗を2019年9月から順次閉店。ラーメンチェーン「スガキヤ」は。全体の1割以上を閉店。「ミスタードーナツ」の国内稼働店舗数は、2019年3月末で1007店だったが、1年で79店舗閉店。毎年70~80店舗の大幅減少。「ヴィレッジバンガード」は2014年403店舗から2019年に346店舗まで減少。5年で57店舗減。他にも。数え上げたらきりがないが、これらには幾つか共通する特徴がある。

①運営を支えていた低賃金労働者の確保が困難になったこと
低賃金で働いてくれる労働者を確保することは難しい。だからといって、給料を高くしてしまうと、今度は会社が厳しくなってしまう。すべて薄利多売商法で大きくなってきた会社である。会社も余力が少ないし、社員も給料を減額されてまで居続けるほど給料はもらっていない。

②企業戦略が売上高主義、店舗拡大主義
会社も、はじめは利益率を見て店舗展開を進めるが、一定の店舗数を超えると停滞期が訪れる。そこで経営者の判断は2つに分かれる。「利益率を落としてでも店舗を増やし売上高を増やす」、もしくは「店舗を増やさずにコストを見直して、会社の収益力を上げる」のどちらかだ。
 いずれかの選択を迫られるわけだが、一般的に「当社は売上高が100億円です。社員が500名います」と言う方が大社長として扱われるため、1つ目を選択してしまう社長が多い。しかし、その経営手法は平成初期までの経営手法である。
例えば、年商100億円で社員500名の会社であれば、一人当たりの売上は2000万円だ。物品販売で見たら、粗利率25%でも利益はたったの500万円しかない。そこから社員はいくらの給料がもらえるのであろうか?当然、その給料では老後は暮らせない。
以前は、たくさん雇用している会社ほど社会に貢献している会社と言われる時代もあった。しかし、今は雇用+適正給料が求められる。人生100年時代を考えると、最低年収が600万円はないと、貯蓄を含めて生活は厳しい。今求められている経営は、少人数で売上・利益を上げる経営体質である。

(次号へ続く)


スタン・ハンセン
1949年8月生まれ。アメリカ・テキサス州出身。学生時代はフットボール部に属していたが、スカウトでプロレスラーに転身。1973年デビュー。75年、日本に初参戦。77年、新日本プロレスに初参戦。以降、アントニオ猪木やジャイアント馬場、日本人レスラー達と熱戦を繰り広げ、人気者に。2000年に引退表明し、翌年東京ドームで引退セレモニーを開催。現在はアメリカの居を移している。