購買心理学から見る『日本経済とプロレス』 (第2回)ゲスト:スタン・ハンセン|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2020.03.09

購買心理学から見る『日本経済とプロレス』 (第2回)ゲスト:スタン・ハンセン

購買心理学から見る『日本経済とプロレス』 (第2回)ゲスト:スタン・ハンセン
場当たり的な対策はブランド価値の毀損を招く

 前回は、急成長してきた大手チェーンが、ここにきて一転、苦境に陥っている話をした。最近何かと話題のコンビニはもとより、「ミスタードーナツ」や「幸楽苑」、「ほっともっと」など、名だたるチェーンが軒並み店舗数を減らしている。その原因は、今の時代に合った経営ができていないからだ。少人数で売上・利益を上げる経営体質こそ、今求められているものだ。

勝ち組飲食店の条件

 立地。いくら美味しくても、実際に遠くまで足を運ぶのはたまにであって、常時ではない。だから商圏と通行量が大事なのだ。逆に味は普通でも、商圏と通行量があれば、お店は潰れない。これが「いきなり!ステーキ」が失敗した大きな理由である。
反対に、日高屋の社長の「味は普通で良い。しかし、駅前の1階に場所はこだわる」という有名な言葉がある。料理にこだわりのある職人からすると「???」となってしまうかもしれないが、私はテレビでその発言を聞いたときに「流石プロ経営者だ!」と思った。だが、それと同時に「『味は普通で良い』というカラクリを、テレビで公に言ってしまって良いのだろうか?」とも思った。
 お客様が求めているのは味だけではない。「早く食べたい」「安価で食べたい」「自宅に帰る途中で食べたい」「並ばないですぐに入れる店が良い」等々、味よりも、むしろその他の総合力で判断されることの方が多い。
 また、「普通の味」というのも、考え方次第では「普通の味=飽きの来ない味」となり、立地が良い、だから毎日通えるという考え方にもなる。結果、ブームに捉われず、安定して売上げの上がる構造ができあがる。味をメーンで売るのでなければ、接客するスタッフも、片言程度の日本語ができる外国人で十分だ。
 「味で勝負」と思っている経営者は、趣味でやるのか、もしくはタピオカのように、一時的に大きく儲けてから、タイミングを見計らって店をたたむのかを考えて出店しなければならない。「いきなり!ステーキ」の場合はどうだろうか。ブームが終わることは、容易に想像がついたはずだ。

会社停滞期にやるべきこと

①徹底的なコスト削減と効率化

 当然、仕入れ規模も大きくなっているはずだから、まずはコストの削減と家賃の減額(この時点で優良なお店としてブランドを確立できていれば、オーナー側も出て行かれるのは困る)、そして人員の見直し(ノウハウも貯まってきているだろうから、5名で回している店舗を3名で回すといった見直し)を行う。
 これらをやる理由は2つ、ブーム終焉時に備えて資金力を付けておくことと、もう1つはどんな業種でも競合が出てくるため、そのときに備えて投資資金を作っておくためだ。
例えば、ステーキを1980円で売っているA店の隣に、980円でステーキを売るB店ができたらどうなるか?普通は、B店にお客は流れてしまう。しかし、A店が500店舗あるのに対して、B店が5店舗しかない場合、仮にA店に上記のようなノウハウがあれば、体力勝負になったときにコストと効率化の面で優位に立てるため、最終的にA店が生き残る可能性が高い。

②無駄な出店を行わない

 私は、「今期、売上が10億円になりました」と喜んでいる社長に対しては必ず、「利益率を伴わない売上UPはリスクですよ」と言います。「売上高だけを求めると倒産します。大切なのは利益率です」といつも言っている。売上高が下がった分を、出店数で補おうとする会社に未来はない。

③小手先で形態を変えない

 「焼き鳥の美味しい店が、次に行ったら居酒屋になっていた」というようなケースはよくある。話を聞くと、どうやら向かいに安い居酒屋ができたことが原因のようだ。
「焼き鳥専門店=居酒屋よりも焼き鳥は美味しい」というイメージで通っている。それなのに焼き鳥屋が「海鮮始めました」となったらどうなるか?「焼き鳥専門店の海鮮=海鮮専門店よりも美味しくない」というのが世間の印象だ。結果、「美味しくない店=焼き鳥専門店」となってしまう。

-専門性を極めれば高い客単価に結び付く、大衆性を強めれば安い客単価になる-

 でも、日ごとに売上が下がると不安になる気持ちも分かる。その場合は、ブランドイメージを損なわないようにやる必要がある。例えば、「有名な割烹の老舗海鮮料亭と期間限定でコラボしました」というような感じだ。これであれば、「自社ブランド+先方の老舗ブランド+3ヶ月間限定で老舗の秘伝のタレに付け込んだ鉄板焼き牡蠣がステーキハウスでも味わえる」となるので、かえって付加価値が付くことになる。今まで来なかったお客も来店するかもしれない。また、「好調だからこそ、有名店とコラボできたのだ」という捉える人もいるだろうし、ブランド価値を毀損させることもない。もし上手くいくようなら、毎年同じ時期に客寄せの起爆剤で実施すれば良い。
 このようなブランド作りをしないで、あの手この手と場当たりなことを行うと、「何をしたいか分からない」「ここのお店もいよいよだな」と言われてしまう。

(次号へ続く)