日本賃貸業界歴史体系~400年の歴史を誇る日本の貸家ビジネス(後編)~|賃貸経営|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2026.03.23

日本賃貸業界歴史体系~400年の歴史を誇る日本の貸家ビジネス(後編)~

日本賃貸業界歴史体系~400年の歴史を誇る日本の貸家ビジネス(後編)~
賃貸管理の歴史は130年を超える!?神戸で産声を上げた兵神館

 前号では、日本における賃貸不動産ビジネスの始まりとして、江戸時代から大正初期頃までの業界の動きについてまとめた。第2回目となる今回は、いよいよ賃貸管理ビジネスの誕生についてみていく。

 400年以上の歴史がある日本の賃貸不動産ビジネスだが、その中にあって賃貸管理業という業種はいつ誕生したのか。業界に携わる方なら誰もが興味ある話題ではないだろうか。
 ここに一つのパンフレット(写真②)がある。これは兵庫県にある帝国信栄(兵庫県神戸市)という不動産会社が昭和18年に作成したとする会社概要や営業種目などをまとめたものだ。そこには「土地地料収入金高ノ百分ノ四」と「家屋家賃収入金高ノ百分ノ五」という文面が確認できる。これはつまり、土地は地代収入の5%、家屋は家賃収入の4%で管理するということを意味している。「何だ、今と変わらないじゃないか」と思うだけの方もいるだろうが、問題はこのパンフレットが作成されたのが昭和18年だということだ。
 一般的に、日本において賃貸管理業務を有償で請け負うようになったのは昭和40年代頃で、またビジネスとして社会的に広く認知されるようになったのは昭和50年代中盤以降だと言われている。しかし帝国信栄のパンフレットを見ると、戦前にはすでに有償で賃貸管理が行われていたことが分かる。これは驚くべき事実だ。しかも手数料は家屋の場合で家賃収入の5%、今の標準的な手数料とまったく同じだ。当時、どうやってこの手数料割合を算出したのかは定かではないが、今に続く管理料の原型はすでに戦前に存在していたことは明らかだ。もちろん、今の管理手数料割合が帝国信栄のそれを真似て、あるいは参考にしたものであるとは限らないし、たまたま同じ割合になっただけかもしれないが、偶然の一致として片付けるのには少々無理がある気もする。いずれにせよ、日本の賃貸管理ビジネスの歴史を語るうえで、帝国信栄という存在は欠かすことができないのではないか。
 ところで、唐突に出てきた帝国信栄だが、ここでそのルーツについても探っていこうと思う。
 太田秀也日本大学経済学部教授(当時)がまとめた『賃貸住宅管理業の沿革~兵神館(帝国信託、帝国信栄)の記録~』によると、同社の創業は明治26年(1893年)にまで遡る。藤尾幸一氏によって合資会社兵神館として創業された。ここでも一つの疑問が沸く。今日において、日本最古の不動産会社として名前が挙がるのは旧安田財閥の創始者である安田善次郎によって設立された東京建物(東京都)だが、それは1896年のことだ。兵神館の方が3年も早いことになる。もっとも当時、賃貸管理業が不動産業務の一環として認知されていたかは定かではなく、そのため「最古の不動産会社」としては扱われていないのかもしれない。
 やや話は逸れたが、明治26年に創業された兵神館は7年後に株式会社に改組。その後、大正10年(1921年)に株式会社として新たに設立された帝国信託に業務を承継。帝国信託は大正11年(1922年)に帝国信栄に社名を改め、今日に至る。業務内容については明治33年の兵神館の定款で貸家や貸地の管理と賃料の取り立て、貸家の修繕などとしっかり明記されている。当然、今ほど細かな管理業務はやっていなかっただろうが、大まかな部分では今の管理会社と変わりがない。兵神館をルーツとする帝国信栄こそ、今日における管理会社の元祖と考えることもできるのではないか。
 帝国信栄の最盛期は昭和20年前後。管理会社の規模を図る尺度として用いられる管理戸数は、昭和18年の営業案内には9万戸となっている。もちろん、この数字をそのまま鵜呑みにすることはできないが、当時で兵庫県、大阪府に合計16の拠点展開をしていたという記述があることから、かなりの規模で事業展開していたことは間違いなさそうだ。残念ながら、同社の管理戸数はその後、建物の老朽化による取り壊しや競合管理会社の台頭、阪神・淡路大震災などにより徐々に減少。現在は約4000戸前後となっている。
 最後に、創業者の藤尾幸一氏についても触れておきたい。同氏は1902年創業の国内最大手のコメ卸業者である神明(兵庫県神戸市)を経営する藤尾一族の出身だ。神明は当然、仕事柄、創業以前から多くの地主や農家との付き合いがあったはずだ。あくまでも推測だが、もしかしたら兵神館はそうしたかねてより付き合いのあった地主たちが所有する土地や建物を管理する目的で創られたのかもしれない。もしそうだとすると、日本の賃貸管理ビジネスの設立に、神明も大きく関わっていたことになる。残念ながら、今のところそれを指し示すような資料や証拠はない。引き続き、取材を続けたい。