都市ガス自由化がプロパンガスの料金にも影響 震災時に最も早く復旧したインフラとして注目集まる|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2017.03.31

都市ガス自由化がプロパンガスの料金にも影響 震災時に最も早く復旧したインフラとして注目集まる

都市ガス自由化がプロパンガスの料金にも影響 震災時に最も早く復旧したインフラとして注目集まる
競争原理が働かず価格は都市ガスの倍以上

 4月1日、都市ガス自由化が始まった。これまで地域で独占供給されてきた都市ガス販売が解放されたことで、新規参入事業者が増え、価格やサービス面で激しい競争が繰り広げられることが期待されている。その影響は都市ガスだけでなくプロパンガスにも及ぶとされ、家庭のエネルギー事情は今後、大きく変わりそうだ。

 プロパンガスは都市ガスと比べて、料金が高い印象が強い。事業者により価格にバラつきがあるため一概には言えないが、プロパンガス料金適正化協会(東京都千代田区)の杉尾信治専務理事によれば、「都市ガスが基本料金1000円で単価140~150円であるのに対し、プロパンガスは基本料金1500円で単価350~380円が相場」と言うように、倍以上の差があることも珍しくない。これはプロパンガスの熱量が都市ガスに比べて倍以上の2万4000㎉/㎥と高く、火力に優れていることや、ガスボンベの輸送や交換、設置に人手がかかるためだとされているが、実はプロパンガス業界ならではの事情も関係しているようだ。
 プロパンガスは持ち運びの容易なボンベを使って、一般家庭や店舗、施設などに供給される。導管が必要な都市ガスと異なり、基本的にはどんな場所・地域でも供給できるため、本来であれば事業者同士で顧客を取り合い、価格競争が生じるはずだ。しかし、現実はそうなっておらず、競争どころか同じエリアに複数のプロパンガス事業者が存在することも稀だ。業界には「宣伝活動や他エリアへの営業行為は御法度」という紳士協定が存在しているとされ、全国に事業者は2万社以上あると言われているにも関わらず、これまでは自らの商圏の枠を飛び越え、他のエリアへ営業をかける事業者がほとんどなかった。顧客からすれば比較対象がないため、高いと感じながらも、業者の提示した価格でガスを購入せざるを得なかったというのがこれまでの実情だ。
災害時に素早く復旧できるプロパンガス

 料金が高いという面だけがクローズアップされがちなプロパンガスだが、実は優れた利点も多くある。その最たる例が火力だ。先述したように、プロパンガスの熱量は都市ガスの2倍以上で、例えば強い火力が必要な中華料理などに適している。実際、ほとんどのレストランの調理場では、都市ガスではなくプロパンガスが導入されているそうだ。
 また、あまり知られていないが、都市ガスは地域によってその成分が異なることがある。そのため引っ越し先で以前使っていたガス器具をそのまま使おうとしても使えないケースが生じる。対してプロパンガスは全国ほぼ同じため、ガス機器をいちいち買い替える必要がない。汎用性に優れている点もプロパンガスの優れた特徴だ。また、ガスを利用できるようにするための工事費用は、プロパンガスがほとんどかからないのに対し、都市ガスは数万円の費用負担が必要になる。
 そして近年、大きくクローズアップされるようになったのが「復旧の早さ」だ。日本では阪神・淡路大震災や東日本大震災など、未曽有の自然災害が相次いでいるが、電気・水道・ガスなどの生活に欠かせないライフラインの中で真っ先に復旧したのは、いずれのケースでもプロパンガスだった。使う仕組みが非常に単純なため、設置や確認作業に時間がかからず、避難所などに一時的に持ち込むこともできる。しかし都市ガスは導管が地中に埋まっているため、確認作業に多大な時間を要し、安全確認が取れない限り使用することはできない。
 東日本大震災の際には、都市ガスよりも12日、電気よりも58日早く完全復旧を果たしている※1。※1経済産業省「東日本大震災を踏まえた今後のLPガス安定供給の在り方に関する調査」より

サイサン、日本瓦斯などが続々と参入

 都市ガス自由化が始まったことで、新規参入事業者はこれからどんどん増えていくことだろう。当然ながら、事業者間での価格競争も激しくなり、電気やインターネットなど、他のインフラと組み合わせた新しいサービスも続々とリリースされることが予想される。しかし、もともと公共性の強い都市ガスは、事業者同士がいくら競争したところで利用料金が今よりも大きく下がるとは考えにくく、そのため煩わしい手続きをしてまでガスの購入先を変えようという消費者は、それほど多くないかもしれない。つまり新規参入事業者が狙う先はどこになるのかと言えば、必然的に価格的なメリットを示しやすいプロパンガスを利用している世帯となる。
 先述したように、都市ガスを利用するためにはガス導管が必要だ。プロパンガスを利用している人の多くは、都市圏から離れていて地域的に導管が整備されてないなどの事情を抱えているため、都市ガス事業先の営業先にはなりえない。しかし一方で、敷地内に導管を引き込みさえすれば都市ガスを利用できるという世帯も少なくない。工事には数万円の費用がかかるが、「今後は契約を取るために引き込み工事を無償にする事業者が出てくる可能性もあります」と、杉尾信治専務理事は話す。仮にそうした都市ガス事業者が増えれば、プロパンガス事業者も顧客を守るためにプロパンガスの料金を引き下げざるを得なくなる。いずれ都市ガスに近い料金のプロパンガス事業者が出てくる可能性は十分にあるだろう。
 また、自ら都市ガス小売りに乗り出すプロパンガス事業者が増える可能性もある。埼玉県を中心に関東一円でガスを販売するサイサン(埼玉県さいたま市)は、東京ガスの支援を受けて都市ガス販売事業にすでに参入を果たした。日本瓦斯(東京都渋谷区)も東京電力エナジーパートナーと連携し、「これまでの料金より3~10%安い価格で提供したい」(和田眞治社長)と、価格競争をいとわない営業方針を打ち出している。都市ガス事業参入を果たしたプロパンガス事業者が、ガスの料金体系をある程度揃えるために、プロパンガスの料金を引き下げる可能性は十分にあると考えられ、今後、ポイントなどの付加サービスも含め、消費者にとって魅力的なプランが増えていくことが期待される。
都市ガス・プロパンの併行利用の流れも

 有事の際に素早く復旧できるプロパンガスが、先の震災を機に大きな注目を浴びています。都市ガスは復旧に時間がかかるため、被災地で温かい食事を提供したり、お風呂を沸かすための熱源として適していませんが、点検が簡単なプロパンであればすぐにこれらにも対応できます。
 これまでは都市ガスに比べて料金が高いというデメリットがありましたが、インターネットの進化に伴い情報収集が容易になったことや、国のエネルギーシステム改革の効果で競争が生まれ、少しずつこの問題も解消されています。
 今後は都市ガスとプロパンガス、それぞれのメリットとデメリットを理解した上で、両者を併行して使おうという流れが顕著になっていくでしょう。プロパンガス料金適正化協会としても、業界の抱える課題の解決に取り組みながら、プロパンガスの普及に努めていきたいと思います。
(杉尾信治専務理事)