真説 賃貸業界史 第2回「家賃債務保証会社、最盛期には250社越超え」|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2018.01.08

真説 賃貸業界史 第2回「家賃債務保証会社、最盛期には250社越超え」

真説 賃貸業界史 第2回「家賃債務保証会社、最盛期には250社越超え」
専業会社は約20年前に事業開始

 連載2回目となる今回は、昨年10月にスタートした登録制度でも話題になっている家賃債務保証の変遷について取り上げたいと思います。
 家賃債務保証とは、何かしらの事情で入居者が家賃を支払えなかった場合に、本人に代わってこれを立て替えるサービスです。もともと保証人代行会社が行っていたサービスの一つでしたが、時代が進むにつれて滞納リスクを軽減したいというニーズが増えたことから、独立した業態に発展していったと言われています。
 家賃債務保証の専業会社として、日本で最初に事業を始めたのはどこなのでしょうか。業界大手と言われる三社、日本賃貸保証(千葉県木更津市)、日本セーフティー(大阪市西区)、全保連(沖縄県那覇市)の設立年を見てみると、一番古いのは日本賃貸保証の平成7年です。次いで平成9年に日本セーフティーが、平成13年に全保連がそれぞれ事業を始めています。一般的に業界シェアと業歴はある程度比例すると考えられることから、おそらくはこの3社が業界の老舗であり、その中でも日本賃貸保証が最も古い会社であると推測されます。このことから、家賃債務保証は業態として確立してからまだ20年程度しか経っていないということが分かります。もちろん、これ以上前から、家賃債務保証を専業としてやっていた会社は絶対にないと言い切ることはできませんが、少なくとも本紙編集部が調査では確認することができませんでした。もしあったとしても、日本賃貸保証よりの業歴を遥に遡るということは考えにくく、本稿においては、家賃債務保証業は始まってから20年のビジネスとしておくことにします。

不況で多くの事業者が業務を停止

 家賃債務保証業界が最も活況になったのは、今から12、3年ほど前のことです。これには大きく2つの流れがありました。異業種からの参入です。当時はいわゆるファンドバブルの真っただ中で、各地でマンションの開発が盛んに行われていました。家賃債務保証会社の一つ、リプラスもこの波に乗り、本業そっちのけで開発事業に邁進し、2004年にはついに株式公開を果たしました。これは業界内外に相当なインパクトを与えました。それまで見向きもされなかった家賃債務保証ビジネスがクローズアップされ、リクルートグループやSBIグループのような大手や、エスグラントコーポレーションのような新興デベロッパーまで、多種多様な企業が家賃債務保証業界に参入しました。
 一方で、債権回収という点で共通する部分の多い、消費者金融の参入もこの頃に活況を迎えました。貸金業法の改正を一つの契機として、アーク賃貸保証(岩手県盛岡市)やアルファ―(鹿児島市照国町)、近畿保証サービス(兵庫県神戸市)、ジェイリース(大分市都町)などが続々と設立されました。最盛期には全国で250社近くの家賃債務保証があったと言われています。
 しかし、アメリカのサブプライムローン問題に端を発する世界的な不況によってこの状況は一変しました。ファンドバブルが崩壊したことで、不動産開発に事業の主軸を移していたリプラスはあっけなく倒産してしまいました。また、景気悪化で家賃滞納者が急増し、立て替え払いができずに事業を停止する事業者が相次ぎ、管理会社の中に新しい流れを生み出しました。それが自社保証と言われるもので、それまで外部に委託していた家賃債務保証を、別会社を作って自分達でやるという動きが増えていきました。ある程度の管理物件があれば、採算は十分に取れますし、大きな収益源にもなりえます。また、立て替えが滞る心配もありません。以前は滞納家賃の回収の煩わしさばかりがクローズアップされていたため、この事業を自らやろうという管理会社はほとんどありませんでしたが、回収業務も今ではかなり整備され、大きな負担にならなくなってきています。大手を中心にこうした動きが増えたことも頷けます。

登録制度で中小規模事業者は淘汰

 しかし、昨年10月に始まった事業者登録制度により、家賃債務保証業界はまた新たな局面を迎えようとしています。登録事業者となるためには、資本力や事業実績などが必要であり、特に事業実勢の部分で多くの家賃債務保証会社がふるい落とされることになると予想されます。それによって改めて事業者の整備・淘汰が進むのではないでしょうか。
 余談ですが、家賃債務保証会社の中には、ウィル賃貸保証(大阪府大阪市)という非常に悪質な事業者もありました。家賃債務保証は、契約の際に入居者から保証料を徴収するビジネスモデルのため、極端な話、原資がなくても始めることができます。滞納さえ発生しなければ立て替えもせずにすみますので、基本的にはお金がどんどんプールされていきます。ウィル賃貸保証はある日突然、事業を停止してこの集めたお金を持って、忽然と姿を消してしまいました。事務所前には、事業を停止した旨を伝える張り紙が1枚だけ貼られていたのを記憶しています。

執筆:山本政之(賃貸ビジネスジャーナリスト)