真説 賃貸業界史 第9回「地に落ちた3点式ユニット バブル時代には贅沢の象徴」|不動産|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2018.08.13

真説 賃貸業界史 第9回「地に落ちた3点式ユニット バブル時代には贅沢の象徴」

真説 賃貸業界史 第9回「地に落ちた3点式ユニット バブル時代には贅沢の象徴」
ホテルニューオータニが50年前に初導入

 トイレと洗面台、バスタブを同室内に収めた「3点式ユニットバス」は、賃貸住宅の空室の要因として、しばしばやり玉に挙げられる不人気設備の代表格です。しかし、今でこそぞんざいな扱いに成り下がってしまいましたが、かつては欧米風のスタイルがもてはやされ、一世を風靡しました。今回は賃貸住宅の発展に大いに貢献した、「3点式ユニットバス」の歴史について見ていきたいと思います。
 日本で最初に繊維強化プラスチック(以下FRP)製の「ユニットバス」を導入したのは、1964年に開催される東京オリンピックに向けて建設工事が進められていたホテルニューオータニだと言われています。アメリカでの当時の浴室は、1枚ずつタイルを張って造る在来工法が主流でしたが、ホテルニューオータニの客室は1000室を超えるため、従来のやり方では開催までに全室分の浴室を完成させることができません。そこで、施工を省力化するために日立化成工業(現 ハウステック)と東洋陶器(現 TOTO)が試行錯誤を繰り返して、完成させたそうです。ただし、日ポリ化工や北海酸素(現 エア・ウォーター)なども同時期にユニットバスを開発しているため、ユニットバスの元祖がどこのメーカーかは見解が分かれるところです。
 因みに、ホテルニューオータニに導入された初代ユニットバスは、後に改装工事が行われたため現存しないと考えられていましたが、2014年の倉庫として使われていた旧客室から当時の状態のまま発見され、現在、TOTOミュージアムで一般公開されています。また、日ポリ化工の大阪ショールームには、同社の技術力をうかがい知ることができる当時のFRP製シャワーユニットが展示されています。

新社会人が手を出せない高級物件

 さて、ホテルから始まった3点式ユニットは、スペースの限られた賃貸住宅に最適な設備だとして、1970代後半頃からアパート・マンションでも広く普及していきました。最盛期はバブル期で、不動産投資が過熱して大量に供給された狭小ワンルームに多く採用されました。
 当時のワンルームマンションの専有面積は、わずか17㎡程度しかありませんでした。まだまだ「風呂なし・共同トイレ」が当たり前の時代、居室が狭くても自室に専用のトイレとシャワーがあるというだけで、高級物件として扱われていました。今のワンルームの家賃相場は都心部でもせいぜい6~7万円台ですが、当時は10万円を超えていました。社会人になりたての20代が手を出せる代物ではなかったようです。
 しかし、贅沢の象徴だった3点式ユニットも、次第に人気に陰りが見え出します。一気に大量供給された結果、バブルが崩壊する頃には3点式ユニット自体珍しいものではなくなり、さらに景気悪化の影響で家賃相場が崩れ、贅沢品というイメージも徐々に薄れていきました。また、「便座が濡れる」「カビが生えやすくて不衛生」「冬場は濡れた床が冷たい」など、ネガティブな側面がクローズアップされるようになったことも、人気の低下に拍車をかけました。バブル絶頂の1988年に、都内で15㎡のワンルームマンションを購入したというSオーナーは、「昔は家賃12万円に保証金40万円でも、ひっきりなしに入居希望の問い合わせが来たものです。それが今では、家賃4万円、敷金・礼金合わせて2ヶ月分でも、なかなか入居が決まりません」と話します。今のような状況は、まったく想像していなかったそうです。
 かつて隆盛を極めた3点式ユニットも、今ではその輝きを完全に失ってしまいました。空室の要因とされている以上、今後は市場から少しづつその姿を消していくかもしれません。