真説 賃貸業界史 第12回「賃貸住宅とリノベーション」|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2018.12.10

真説 賃貸業界史 第12回「賃貸住宅とリノベーション」

真説 賃貸業界史 第12回「賃貸住宅とリノベーション」
リノベーションであってリノベーションにあらず!?
表層リフォームとして定着


 「リノベーション」と聞くと多くの人は、築古の住宅がオシャレに生まれ変わる様を思い浮かべるはずだ。資産価値を高める手段として一般に知られるようになってからすでに30年が経過し、今や賃貸住宅でも当たり前のように使われている。賃貸業界におけるリノベーションの歴史を探った。
 「リノベーション」とは、躯体だけを残して一度スケルトン状態にした空間を、新たなコンセプトに従って造り直すリフォームの一種。日本で初めてこの言葉が使われたのは1998年頃のことで、大阪の中古マンションがその第1号だと言われている。古く、設備や間取りが陳腐化した中古住宅をオシャレに甦らせるこの新しい手法は、瞬く間に世間で話題となり、マンションや戸建て住宅、老朽ビルなど、ありとあらゆる建物の再生法として広まっていった。
 賃貸住宅業界でもすぐに、この言葉は使われるようになった。しかし、この業界に限って言えば、特殊な事情により、リノベーションの本来の意味は薄れ、独自の解釈で広まっていった。
 賃貸経営は事業だ。そのため、新しい設備を入れるにしても、リフォームで部屋をキレイにするにしても、かかった費用の回収にどのくらいの時間がかかるのかが常に問われる。同じ賃貸経営でも、法人オーナーが多いビル業界では投資回収期間を長期で見る傾向が強い。一方で賃貸住宅業界は、大半が個人のため、そもそも多額の投資をできるオーナーの数が少ない。そのため、部屋をオシャレにリフォームしたいと思っても、何百万円もかかるような本格的なリノベーションはできない。少ない投資でリノベーションのようにお部屋をオシャレにすることはできないかと、誰もが頭を悩ませた末に行き着いたのは、「リノベーション」の解釈そのものを変えるというものだった。

「部屋をオシャレに見せるだけなら、壁紙や床を張り替えるだけでもできる」
「表層を変えるだけなら費用はそれほど高額にならない」

結果、賃貸住宅業界では、見た目がオシャレになる表層リフォームのことを、リノベーションと呼ぶようになった。言葉上は同じに聞こえても、賃貸市場におけるリノベーションと、中古市場のそれはまったく違うものなのだ。
 本来の意味とは異なる解釈ながら、個人オーナーの心を捉えた賃貸独自のリノベーションは、業界内で大いに流行った。リフォーム会社だけでなく、設計事務所や不動産会社などの参入も相次ぎ、一時期、その数は全国に3000社を数えた。

万人受けよりもコア層を狙った戦略

 一方で、賃貸業界にありながら、本格的なリノベーションにこだわる会社も数多く存在した。その一つが、大阪のサブリース会社A社だ。リノベーションを行う会社は過去にいくつも見てきたが、いまだにA社を超える衝撃を受けた存在はない。コンセプトはもちろん、使用する部材や規模など、何から何までが規格外だった。例えば、まだブレイクする前のAKB48とコラボレーションした「ファンタジーのお部屋」は、床面積は100㎡を超え、室内には猫バスを模したゲートや室内ブランコなど、おおよそ賃貸とは思えない空間になっていた。タレントの岸部四郎さんをヒントにした「夜逃げ部屋」も、部屋のあちらこちらに隠し扉があり、まるで迷路のような造りになっていた。他にも、一世を風靡したセクシー女優、夏目ナナさんを起用した「官能の部屋」や、漫画家の梅図かずおさんの世界観を表現した「紅白の部屋」など、他が絶対に真似できない作品をいくつも生み出した。唯一無二のものを生み出すためであれば、決して投資を惜しむことはなかった。確かに、非常にクセの強い作品が多いが、100人いれば1人くらいは必ず気に入る人がいるものだ。あえて万人受けしないものを目指した戦略は秀逸だった。低価格路線が先行していた賃貸業界のリノベーションに、一石を投じたA社は、今や大阪のリノベーション業界で伝説的な存在になっている。
 今回は、賃貸業界におけるリノベーションの歴史について見てきた。業界にはまだまだ面白い会社はたくさんある。機会があればまた取り上げたいと思う。