真説 賃貸業界史 第13回「生活様式・ライフスタイルの変化に応じて変わる間取り」|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2019.01.21

真説 賃貸業界史 第13回「生活様式・ライフスタイルの変化に応じて変わる間取り」

真説 賃貸業界史 第13回「生活様式・ライフスタイルの変化に応じて変わる間取り」
江戸では人口の7割が賃貸暮らし

 ワンルーム、1DK、1LDKなど、賃貸住宅にはさまざまな間取りがありますが、みなさんはその歴史について考えたことはありますか?今回は普段あまり気にすることのない「間取り」にスポットを当ててみたいと思います。

 「賃貸住宅」という言葉が、広く一般で使われるようになったのは戦後のことです。明治から大正、昭和初期は「貸家」というのが一般的で、江戸時代まで遡ると「長屋」と呼ばれていました。まずはこの長屋の間取りから見ていきたいと思います。
 テレビの時代劇などでもよく登場する、井戸を囲むようにして建てられた長屋は、正確には「裏長屋」と言います。対して、表通りに面した長屋は「表長屋」と呼ばれていました。
 江戸時代は身分によって住むエリアが決まっていて、一般庶民(町人)が暮らす場所は「町人地」と呼ばれていました。当時の人口は約50万人。このうち家を所有していたのは約3割で、それは商いで成功した商人たちがほとんどでした。残りは今で言うところの賃貸派(もっとも好んで賃貸に住んでいたわけではない)で、ほとんどが長屋で暮らしていました。
 当時の借家の仕組みにまで言及してしまうと話が長くなってしまうので、ここでは割愛し、早速、間取りの話に移りたいと思います。長屋とは読んで字のごとく、長方形の形をした建物です。これを縦にして横に区切ってものは「割長屋」と呼ばれ、玄関と反対側に窓を設けるのが一般的な造りでした。間口は2.7m、奥行きは7m強。部屋の中に中扉や仕切りなどはなく、玄関を入ると奥まで丸見えの状態でした。入ってすぐの部分は土間になっていて、炊事はここで行っていました。奥は畳10畳ほどのスペースになっていて、4、5名程度の家族が生活していたそうです。専用の厠や風呂などはありませんでした。
 これとは別に「棟割長屋」というものもありました。「割長屋」を真ん中でさらに半分に仕切ったもので、玄関を入ってすぐの場所が土間で、奥は4畳半のスペースになっていました。家族で暮らすのには手狭ですので、一人暮らしや子供のいない夫婦などが暮らしていたようです。
隣家との境は壁一枚でしたので、声や音は筒抜け。隙間も多く、冬は今とは比べ物にならないほど寒かったはずです。リビングや寝室などの概念はなく、食事をするのも寝るのもすべて同じ部屋でした。
 こうした様式は明治まで続きましたが、大正になると、欧米文化の影響を受けて庶民の住まいも少しずつ変わっていきました。そして日本最初期の鉄筋コンクリート造集合住宅「同潤会アパート」が登場により、集合住宅のイメージは一新されました。
「同潤会アパート」では、共同のトイレや洗面所も棟内に造られ、生活のすべてを一つの建物の中で完結できるようになりました。間取りは複数のプランが混在していて、単身者用は3畳~8畳の一間、ファミリー用には2間もしくは3間の部屋がありました。
現存する建物は少なくなりましたが、小説やドラマ、マンガの中に「○○荘」というような名称で頻繁に登場するアパートもこの頃から増えはじめ、「同潤会アパート」と同じように、同じ建物の中に共同トイレや洗面スペースがありました。
 戦後に大きなブームを巻き起こしたのは、「公団型」と呼ばれる2DKの間取りでした。これは、建築学者・西山夘三氏によって提唱された「食寝分離論」をもとに考案されたもので、公営住宅で採用されたことがきっかけで、民間の賃貸住宅にも一気に広がりました。時は高度経済成長期、地方から大都市に流入してくる中流階級の労働者の賃貸需要を支える存在として、最盛期には30万戸にも及ぶ住宅が供給されました。
 90年代になると、バブル経済の影響で人々の所得水準が高まり、さらに贅沢な間取りが求められるようになりました。その象徴も言えるのが、ダイニングキッチンにリビングの機能を合わせ持たせた「LDK」です。家族団らんの場所としてはもちろん、自宅にゲストを招いてパーティーを開くと贅沢なスタイルは、LDKの存在なくして語れません。一方で単身者用には、「ワンルーム」が大流行しました。居室は狭いながらも、トイレとバス、洗面所が一体になったいわゆる欧米式の3点ユニットは、オシャレの象徴として若者の間で大流行し、ある種のステータスとしてもてはやされました。
 間取りは、その時代を象徴します。社会様式や人々のライフスタイルが変われば、人気の間取りも変わります。今後も機会があれば、もっと深く間取りの歴史について振り返ってみたいと思います。