相続不動産相談所「リノベーションと建替え、節税効果が高いのはどっち?」|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2019.07.01

相続不動産相談所「リノベーションと建替え、節税効果が高いのはどっち?」

相続不動産相談所「リノベーションと建替え、節税効果が高いのはどっち?」
財産合計額を減らすことで2000万円の節税に成功

 老朽化して入居率の低下したアパートをどうするか、お悩みの方は多いと思います。リノベーションして満室稼働を目指すのも一つの手ですが、あまりに古い物件だと新築するのとさほど変わらない改装費がかかることもあります。そうかと言って、何もせずに放っておいたら、毎年税金の文だけ赤字になってしまいます。こうしたケースでは将来的な相続まで視野に入れて検討することをお勧めます。今回は、老朽アパートの立て替えによって相続税の節税に成功した事例をご紹介します。

 大阪に住むAさんは、市内に総戸数10戸のアパートを所有していました。建築から35年、老朽化していたこともあり、最近は満室になることはほとんどなく、常に半分ほどが空室でした。いくら手入れをしていても、建物は使っていないと傷みでいくものです。周囲に与える影響も良くないことから、Aさんは管理を任せている不動産業者から提案されたリノベーションを検討していました。
 そんなとき、知り合いから相続に詳しい税理士を紹介されました。Aさんも来年で72歳、相続については一通りの準備はしてあるものの、話しているうちにその税理士のもつ豊富な経験と知識に興味を持つようになり、アパートをどうすれば良いか相談してみることにしました。
 まずアパートの状況ですが、賃料は一律5万5000円で10戸中5戸が埋まっている状態でしたので、年間の賃料収入は330万円(5万5000円×5戸×12カ月)ありました。財産の合計金額は、土地と建物の相続税評価がそれぞれ1400万円と2900万円、これに現金預金1億3000万円を合わせ、1億7300万円で、これをもとにした相続税は約3000万円でした。
 これだけ現金があると、「相続税に備えて、できるだけ残しておきたい」と考える方もおられますが、いくら現金があってもボロボロの物件まで付いてくるというのでは、後々のメンテナンス費用や固定資産税のことまで考えたら、被相続人のメリットも少なくなってしまいます。
 それでは、建物をリノベーションした場合、どんな効果が得られるのでしょうか。入居状況が改善されるため、当然ながら収入は増えます。また、現金を使うことになるので、相続評価額が下がり、一定の節税効果を得ることもできます。投資した分は、家賃収入から回収することができるので、相続税対策としては非常に有効な手段だと言えます。Aさんも、子供たちのためにもなるからと、前向きに検討していました。
 ところが同じ現金を使うのであれば、思い切って建て替えてしまった方がより大きな節税効果を得ることができると提案しました。3階建て12戸の建物を新築した場合にかかる費用は1億1000万円、そのうち6000万円を現金預金から捻出し、残りの5000万円はアパートローンを利用します。これによって預金は7000万円まで減らすことができます。土地の評価額は建て替え前と変わらず1400万円、一方建物は6000万円までアップします。すると財産合計は預金7000万円-借入金5000万円+土地評価1400万円+建物評価6000万円で、9400万円となります。建て替え前と比べると、7900万円も削減できます。相続税は1000万円ほどになりますので、約2000万円の節税に成功したことになります。建設にかかった費用は家賃収入で回収していくことになりますが、戸当たりの賃料を6万5000円と想定した場合、賃料収入は年間で936万円となり、以前の3倍近くに跳ね上がります。礼金収入も含めればより多くの収入が得られるはずですので、投資資金はわずか12年程度で回収できることになります。
 今回の節税のポイントは、投資額の大きさです。リノベーションも現預金を使いますが、かかってもせいぜい1000万~2000万円程度。建替えと比べると、節税効果は小さくなります。もちろん現金にできるだけ手を付けたくないという方には有効な手段です。Aさんは検討の結果、より高い効果の得られる建替えを選択されました。結局賃料は当初の想定より3000円高い6万8000円にしたため、収入はさらに増えました。