業界のモラルを問う!緊急覆面座談会|住生活新聞 記者の目|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2019.10.07

業界のモラルを問う!緊急覆面座談会

業界のモラルを問う!緊急覆面座談会
業界騒然!了承を得ずの賃料1ヶ月分の手数料徴収に待った!
業界再編の可能性も!?


入居者本人の承諾を得ずに家賃1ヶ月分の仲介手数料を徴収したとして、東急リバブルに対し、入居者に半月分相当を返還するように命じた裁判から2ヶ月。賃貸業界では、今後の仲介ビジネスがどうなるのかと、不安の声が広がっている。本紙では、業界を揺るがしたこの驚きの裁判判決にについて、業界経験の長い不動産会社社長3名による覆面座談会を開催した。
-まずは自己紹介をお願いします。

A社長 僕は横浜で不動産会社を経営しています。業歴は25年、主に賃貸仲介・管理、不動産コンサルティングを手掛けています。

B社長 18歳でこの業過に入って今年で22年目。3年前に独立して、都内23区を対象にした不動産会社を経営しています。賃貸管理をメーンに、仲介や売買なども行っています。

C社長 創業50年の不動産会社を経営しています。私は2代目で、10年ほど前に父から会社を引き継ぎました。以前は都内に仲介店舗を3店出していましたが、今は本店に集約し、管理業を主軸に据えています。

-今回の裁判判決は、「アパート・マンションに入居する際に払う仲介手数料は原則0.5カ月、上限1ヶ月」という国の公示が根拠になっています。しかし実際には、“仲介手数料は1ヶ月分”というのが業界のスタンダードになっているような印象を受けます。そもそもこのルール自体、業界でどの程度認知されているのでしょうか。

A社長 最初にはっきりさせておきたいのは、このルールはあくまでも「公示」であって、宅建業法に明記されている決まりではないということ。実際、業法には「仲介手数料は0.5月分」なんて表現はどこにもないんだよね。じゃあどこに書かれているのかと言うと、昭和45年に建設省が出した公示の中にある。ここには、入居者と家主から徴収できる報酬(仲介手数料)は、合計で賃料1ヶ月分以内と明記されている。つまり、今回の判決は、業法に則って出されたものではなく、50年近くも前に出された公示に基づくものだというわけだ。

B社長 業法内で「国土交通大臣の定めるところ」という中途半端な表現をしているから、余計にややこしい。不動産業者からすれば、ルールなのかそうでないのか分かりにくい。「だったら昔ながらのやり方のままでいいでしょ」というような具合で、「なあなあ」のままでやっているというのが正直なところだよね。

C社長 分かりにくいけど、公示は入居者から1ヶ月分を徴収することは駄目と言っているわけではないんだよね。家主と入居者、双方から徴収できる報酬の上限額を賃料1ヶ月分としているだけであって、当時者の了承さえあれば、どちらからもらってもいいことになっている。現状、1ヶ月分の仲介手数料を徴収している業者は、全額を入居者から徴収しているというスタンスなんだよね。

-しかし、賃料1ヶ月分の仲介手数料を入居者からもらっているにもかかわらず、一方で家主からも同額の報酬をもらっています。これはルール違反にはならないのですか?

C社長 だから家主からもらう報酬については、「仲介手数料」と言わず「広告料」としているんだよね。仲介手数料と言ったら、合計で2ヶ月分を徴収していることになってしまからね。実質的には仲介手数料となんら変わらないんだけど、暗黙の了解というか、古い体質を変えられないこの業界の悪いところだよね。

A社長 とは言え、公示に従ってまじめにやっていたら仲介ビジネスは成り立たない。最近は集客対策にもお金がかかるし、人件費も上がっている。合計1ヶ月分の報酬だけでは、ほとんど利益がないから食っていけないと言うのが正直なところだよ。

-全額を入居者から徴収する場合は、当時者の了承を得る必要があるとなっています。ところが実際には、入居者のほとんどは0.5ヶ月分が原則だということすら把握していません。

B社長 東急リバブルが突っ込まれたのがまさにそこだよね。「事前に了承を得ていなかった、だからルール違反でしょ?」というわけだ。もしかしたら、会社としてはきちんと説明するように指導していたかもしれないけどね。でも現場は忙しいし、ほとんど一般常識として浸透してしまっているものを、いちいち説明している余裕はないよね。

C社長 入居者から1ヶ月分の仲介手数料を取る際に、あらかじめこのことをきちんと説明している業者は、私が知る限りほとんどいませんね。正直に言いますが、うちも今までいちいち説明してこなかった。

-この判決は、今後の賃貸業界にどのような影響を及ぼすと考えられますか?

A社長 今年ももう10月。あと2ヶ月で年明けの繁忙期を迎える。まずはここに向けてどんな準備をするべきか、みんな悩んでいると思う。少なくとも今までのように、単に入居募集広告に「手数料1ヶ月分」と表記しているだけでは駄目だよね。そもそも一般消費者は0.5月分という原則を知らないんだから了承するも何もない。1ヶ月分を徴収するのであれば、「仲介手数料は、家主と入居者双方から賃料0.5月分ずつ、合計1ヶ月分頂くのが原則ですが、当店では入居者に1ヶ月分相当を全額負担してもらいます」と、きちんと明記しておく必要があるよね。

C社長 今の時代、こんな表記を見たらお客さんは逃げちゃうよね。だって、大手チェーンでは以前から手数料0.5月分としているところがあるんだから。よほど「これだ!」という部屋がない限り、わざわざ手数料が1ヶ月分かかる仲介業者には行かないよね。

B社長 説明の手間もかかるし、もしかしたら手数料を半月分にする業者が増えるかも知れないね。

-みなさんはどうするおつもりですか?

A社長 もう少し様子を見たいと思っている。周りの業者、もしくは業界的な動きを見て判断するつもりだ。

B社長 うちは管理業がメーンだから、もともと仲介手数料は0.5ヶ月分でやっていました。だから特に変えることはないですね。ただ今までは手数料が半月分というのを見てきてくれたお客さんが多少なりともいたと思うんですが、周りの業者がみんな半月分にしたら、もうこれで集客はできなくなりますよね。

C社長 うちは今まで1月分でやっていたから、どうしようかと悩んでいます。管理業にシフトしているとはいえ、今でも年間200件近くを仲介しています。家主からもらう広告料と合わせ仲介1件につき家賃2ヶ月分あった売り上げが、入居者分が0.5ヶ月分に減るわけですからね。単純に仲介の売上は25%減ることになる。そのまま据え置いても客数は減るだろうし、悩みどころですよね。

B社長 今まで仲介してきた分への影響を心配する声もあるよね。今回の判決を見て「俺も何も説明を受けていないから半月分返せ!」という人が出てくることがあるかもしれないね。

C社長 もしそんなことが起これば、業界は大混乱だよね。さっきも言ったけど、わざわざ説明していた業者はほとんどいないんだから。今回の判決に則れば、手数料1ヶ月分とっていた仲介業者は、ほとんど半月分返せと言われたら応じないといけないことになってしまう。

A社長 賃貸仲介ビジネスは昔と違って、今はほとんど利益が出ないから、そんなことになれば潰れる業者も出てくるかもしれないね。特にこういうのは消費者団体が便乗しやすいネタだから、今後の動向が心配だよね。

B社長 余計な混乱を招かないようにするためにも、宅建協会なども何らかの指針を出すべきじゃないかと思う。そもそも入居者から1ヶ月の仲介手数料をもらう一方で、家主からも広告料という名目でお金を徴収していたのは、協会だって黙認してきたことなわけだから。

A社長 数多いる不動産業者のほとんどは、地場の中小。それゆえにどう対応して良いか分からずに困り果てている業者も多いはず。彼らのためにも、指針というかガイドライン的なものを示す必要はあるかもしれませんね。

C社長 今回の判決が業界に対してどのくらいの影響を及ぼすのかは未知数ではあるけれども、いずれにせよ転機になることは間違いなさそうですよね。半月分がスタンダードとなれば、業者も廃業する業者も出るかも知れない。そもそも業者の数は多過ぎるわけだし、ある位程度淘汰が進む可能性はある。そうなったら業界再編だよね。

 業界を震撼させた驚きの裁判判決。今のところ、これに続く目立った動きはないが、しばらくは予断を許さない状況が続きそうだ。少なとも、賃貸仲介業者は次の繁忙期に向け、何かしら対策を講じる必要があるだろう。