真説 賃貸業界史 第31回~どうなる?コロナ後の不動産業界~|コラム|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2020.09.07

真説 賃貸業界史 第31回~どうなる?コロナ後の不動産業界~

再び歴史は繰り返されるのか?

 -歴史は繰り返す-これは、古代ローマの歴史家、クルティウス・ルフスの言葉だ。良い出来事、悪い出来事にかかわらず、過去にあったことは、必ず後の時代でも繰り返すことを指す。これは日本の不動産業界にも当てはまる。好景気を背景にのし上がった不動産業者が、景気が後退するや否や途端に業績不振に陥り、やがて経営破綻する。昭和から平成へと時代が変わる中で、何度も同じことを繰り返されてきた。オリンピック景気後もまた同じことが起こるのか。
 昭和から平成にかけてのバブル期、不動産業界では「FOKAS(フォーカス)」や「AIDS(エイズ)」という言葉が流行った。今では聞く機会はほとんどないが、当時は一般紙でも頻繁に取り上げられたため、不動産関係者でなくとも、50歳前後の方なら覚えているのではないだろうか。
 この言葉は両方とも、不動産会社の頭文字を組み合わせて作られた言葉だ。「FOKAS」は、「F」が富士住建、「O」がオギサカ、「K」が川辺物産、「A」が朝日住建、「S」は末野興産、いずれも関西を地盤にした不動産会社だ。不動産会社といってもその業務内容はそれぞれ異なり、末野興産は自社開発したビルの賃貸を生業とし、他の4社はいわゆるマンションやリゾートなどの開発を行っていた。いずれもバブル最盛期に住専(住宅金融専門会社)から何百、何千億円という融資を受けて事業を拡大したものの、バブル崩壊後に多額の借金を抱えたままあっさり経営破綻した。負債総額は桁外れで、末野興産に至っては1兆円を超えていた。
 一方の「AIDS」は「A」が麻布建物、「I」がイ・アイ・イ インターナショナル、「D」が第一不動産、「S」が秀和を表す。「FOKAS」が関西系不動産会社であるのに対し、「FOKAS」はいずれも東京の会社だ。こちらも「FOKAS」同様、いずれもバブル崩壊後に借金で首が回らなくなって経営破綻した。今ではこの8社について、一般メディアが取り上げることはほとんどないが、1年半ほど前に日経ビジネスが、麻布建物の元社長・渡辺喜太郎氏のインタビューを掲載した。当時の経営者が一般メディアに登場するのは随分久しぶりのことだったのではないだろうか。末野氏などは今でも大阪の北新地界隈を頻繁に訪れているという噂だが、もちろんメディアに登場することはない。それだけにバブル当時のことを知る渡辺氏のインタビューは大変貴重だった。ネットで閲覧できるので、興味のある方は是非、読んでみると良いだろう。
 話が横道にそれてしまったが、経済が好調な時分には必ず、不動産業でのし上がる会社が出てくるものだ。バブル期は「FOKAS」と「AIDS」がそれだった。では2000年代のファンドバブルと呼ばれた時期はどうだったか。大きなところではスルガコーポレーションやアーバンコーポレイション、中堅・新興どころではHuman21やダイナシティ、エスグラントコーポレーション、ケイアール不動産、モリモトなどが、好景気を背景に業績を一気に伸ばしたが、リーマンショックが起こるとあえなく経営破綻に追い込まれた。もっとも、負債額はバブル崩壊後に経営破綻した不動産会社と比べれば、相当に少ないように感じるが、それでも業界に与えた影響は決して小さくなかった。結局、バブル景気からバブル崩壊に至る一連の出来事は、ファンドバブルからリーマンショックでも繰り返されたのだ。
 オリンピック景気に沸く不動産市場はこれからどうなるのか。もともとこの景気が続くのは東京五輪が終わるまでと言われていたが、新型コロナウイルスのおかげで、それすらも怪しくなってきた。実際、すでに各方面に影響が出始めている。その最たる例がホテル業界だ。インバンド需要はほぼゼロの状態になり、五輪客の取り込みどころの状況ではない。国内観光、出張利用も依然として低水準のままだ。収支計画に大きな狂いが生じたことで、損を覚悟でホテルの売却に踏み切る業者も出始めている。デザイン性を重視したカプセルホテルの開発で業績を伸ばしてきた新興ホテル業者のファーストキャビンは4月に経営破綻に追い込まれた。今はまだ、その影響はホテル業界に留まっているが、コロナがいつ収束するか分からない以上、これからマンション業界にも波及していくだろう。巷では「○○が危ない」というような噂はすでに出始めている。
果たして、再び歴史は繰り返されるのか。今後の不動産業界の動きに注目したい。