相続不動産相談所~資産凍結のリスクを回避できる「家族信託」とは?~|相続|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2021.04.12

相続不動産相談所~資産凍結のリスクを回避できる「家族信託」とは?~

相続不動産相談所~資産凍結のリスクを回避できる「家族信託」とは?~
被相続人は健康不安、奥様は認知症!

 みなさんは、「家族信託」という仕組みをご存知でしょうか?最近、話題になっているので、テレビや雑誌などで何となく目にしたことがあるという方もいらっしゃるかもしれませんが、詳しく知っているという方は少ないと思います。今回は、そんな「家族信託」を利用した相続対策について、事例を交えてご紹介します。

「父が認知症になってしまった。財産分与について何も話していなかったが、一体どうなってしまうのか・・・」

 神奈川県藤沢市にお住いの渡辺幸太郎さん(51)が相続について相談したいと、市内の税理士事務所を訪ねたのは2010年のことだったそうです。普通であれば、家族構成や資産の状況などを聞き取りした上で、適切な相続対策の手続きを行っていくことになりますが、渡辺さんのケースは特殊な事情があり、通常の手続きでは相続対策ができない状態になっていました。被相続人である81歳のお父様が、認知症で正常な判断ができなくなってしまっていたのです。
 社会の高齢化が進んでいる現代においては、渡辺さんのご家族のような事例が増えていります。高齢による認知症だけでなく、病気や事故が原因で、財産管理ができなくなるケースもあります。こうした不慮の事態を避けるためには、一体どうすれば良いのでしょうか?
 そこで注目したいのが「家族信託」という仕組みです。これは、財産をお持ちの方が、病気や事故、認知症などで正常な意志判断ができなくなる前に、配偶者やお子さんたちに、財産の管理や活用を任せるための仕組みです。できてからまだ14年ほどしか経っていない、比較的新しい制度です。似たものに「遺言信託」という制度がありますが、こちらは遺言者が亡くなった後にしか効果は発生しません。したがって、遺言者が何かしらの事情で意志判断できない状態になってしまっても、存命中は誰も財産を管理・活用することができません。一方で「家族信託」は、生前の段階で、本人以外が財産の管理・活用をできるようにするものです。つまり、正常な意志判断ができなくなってしまった親に代わって、奥様やお子さんが財産を管理・活用しても構わないというわけです。
 ここで、東京都八王子市にお住いの田中真一さん(75)の事例をご紹介します。田中さんには2012年当時、一つ下の奥様と、30歳と28歳になるお子さんがいました。お子さんにはそれぞれお1人ずつ、お子さんがおられました。もともと農家をしていたのですが、30年ほど前に、持っていた土地に3棟のアパートを建てました。
 通常であれば、相続対策はこれで万全です。田中さんが亡くなった後は、奥様と2人の子さんで財産を分け合うことになります。しかし、実はすでにこの頃、田中さんの奥さんには認知症の症状が出始めていました。また、田中さん自身も体調に不安を感じるようになってため、税理士に相談の上、お子さんたち2人を「受託者」に、そして2人のお孫さんを「受益者」とする「家族信託」を行うことにしました。その際、アパートなどの不動産はご長男側に、現金などの資産はご次男側に相続していくことを取り決めました。不動産と現金資産の相続先を明確に分けたのは、不動産の持分共有化を回避するためでした。通常、相続人の指定がない不動産は、相続人が複数いると、持分共有で相続されます。田中家の場合、お子さんが2人いるので、土地を2つに分割して相続することになります。土地の分割を避けるために、どちらか一方が相続する不動産に相当する現金を支払うという方法もありますが、これは現金がないと成立しません。仮に分割が何代も続けば、もともと広大だった土地も、どんどん細分化されていってしまいます。しかし、「家族信託」を利用すれば、あらかじめ「不動産は○○」、「現金は○○」といった具合に、二次相続以降の資産の承継先を指定し、資産が細分化するのを防ぐことができます。
 ここまで見ると、「家族信託」はメリットばかりのように見えますが、もちろんデメリットもないわけではありません。所得税の申告で損益通算することができなかったり、身上監護権がないといった点は、「家族信託」ならではのデメリットだと言えるでしょう。
 ちなみに田中さんは、「家族信託」の手続きを終えた半年後に、脳卒中で倒れ、そのままお亡くなりになりました。突然のことで、お子さん方も大変驚かれたそうです。仮に、「家族信託」をしていなかったら、財産の相続すら、通常の手続きではできなくなるところでした。
 相続対策にいろいろな方法がありますが、どの方法が最適化は、財産の持ち主の家族構成や資産状況などをよって異なります。みなさんも今のうちに、将来的な相続について考えてみませんか?相続に関するお悩みやご相談は、お近くの全国優良リフォーム会員まで。