真説 賃貸業界史 第40回~業界にはびこる悪徳建築業者~|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
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2021.07.12

真説 賃貸業界史 第40回~業界にはびこる悪徳建築業者~

真説 賃貸業界史 第40回~業界にはびこる悪徳建築業者~
アパート階段の崩落死事故、施工会社が自己破産

 東京都八王子にあるアパートの階段が崩落し、住人の女性が亡くなった事件で、施工を担当した住宅会社「則武地所」の自己破産が大きな話題になっています。責任を果たさずに破産申請したことに対し、赤羽一嘉国土交通大臣も遺憾の意を示すなど、今後の動向が注目されます。今回は、悪質なアパートメーカーの事例を取り上げたいと思います。

 則武地所は2000年創業の住宅会社で、神奈川県と東京都で3階建ての木造アパートの建築を主体にしていました。約20年の営業で施工した物件の数は166棟にのぼり、アパートの施工業者としてはかなり力があったと言われています。
 アパート市場は、大手ハウスメーカーを筆頭に、非常に競争の激しい市場です。その中でなぜ、同社がこれほどの建築実績を挙げることができたのでしょうか。それはどうやら、価格競争力にあったようです。同社の建築するアパートは、同業他社と比べ、15~20%ほど安く、それにより高い利回りを確保できる点が高く評価されていました。特に、利回り重視の投資家からは、多くの引き合いがあったと言われています。
 もちろん、それが営業努力によって実現されたものだというのであれば、高く評価されるべきです。しかし、今回の事故から、同社が安くアパートを建てることができたのは、単に手抜き工事をしていたからだという疑念が生じました。実際、一部の自治体で自主的に行われた同社施工物件に対する調査では、すでに数棟で階段の腐食等の問題が見つかっています。
 さて、同社は事故直後、コロナ禍を理由として休業期間を挟み、5月20日に自己破産の手続きを行いました。当然ながら、責任逃れともとれる同社の行動に対し、世間からは非難の声が殺到しています。このままでは、亡くなった女性の遺族が元経営者に対し、謝罪や補償を求めることができません。逃げた者勝ちにさせないためにも、国や警視庁は、徹底的に責任を追及して欲しいところです。
 さて、もう一つ、かつて存在した悪質なアパート施工業者について触れておきたいと思います。その業者とは、福岡で営業展開していたスチールハウス九州という会社です。
 会社名からも分かる通り、同社はスチールハウスという特殊な鉄骨構造体を用いた賃貸住宅の建築を得意としていた業者でした。最盛期は2004年頃で、3月期決算では14億円を超える売上高を計上していました。しかし、一方でその資産内容は貧弱で、準自己破産申請を行った時点でわずか1200万円しかなかったそうです。
 当時、同社は賃貸住宅の建築に強い会社として、福岡県内ではかなりの知名度がありました。晩年には小規模有料老人ホームの建設にも着手するなど、事業の多角化にも積極的に取り組んでいました。広告宣伝も積極的に行っており、当時を知る業界関係者の話では、「羽振りの良い会社」というイメージが強かったそうです。
 そんな同社はなぜ経営破綻したのでしょうか。それは資産がわずかしかなかったことからも分かる通り、利益率がかなり低かったためだと考えられます。スチールハウスは頑丈で耐久性に優れる一方、価格面では木造に遠く及びません。同社はその問題を解消するため、利益を極限まで減らし、低価格でアパートを受注していたそうです。このやり方は、契約が順調に取れている間は問題ありませんが、いったん歯車が狂うと、途端に会社は火の車になります。実際、末期には従業員に対する給与の支払い等も遅れるほど、財務面はひっ迫していたそうです。
 結局、最高の売上高を記録した直後の2004年8月に銀行取引停止処分を受け、9月27日は福岡地裁に準自己破産申請を行いました。未払い給与と退職金の合計額は約2640万円に対し、配当原資となる資産は1200万円。ここからどれだけが従業員の配当に回されたかは不明ですが、一般債権者に対しては1円の配当もなかったそうです。
 余談ですが、当時、同社の経営破綻により、施工途中で工事が止まってしまった現場がいくつかありました。特殊な工法の建物だっただけに、事業主であるオーナーも工事に再開までに相当な苦労をしたそうです。