真説 賃貸業界史 第42回~かつて存在した優れた技術をもった建築会社~|コラム|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
豆知識

2021.09.06

真説 賃貸業界史 第42回~かつて存在した優れた技術をもった建築会社~

真説 賃貸業界史 第42回~かつて存在した優れた技術をもった建築会社~
多々良、アタラシ、ロングホーム等々、業界紙に名を残す建築会社

 賃貸住宅を建てる建設会社には、ユニークな工法をウリに実績を伸ばしている会社が多い。中には「ユーミーマンション」や「ヒーローマンション」のように、その強みを生かし、フランチャイズや代理店などの形で全国展開を進め、一大ブランドになった会社もあるが、一方で、志半ばで経営破綻の憂き目に遭った会社も少なくない。今回は、かつてユニークな工法で名を挙げ、全国制覇を目指した建設会社についてまとめた。


 「多々良(たたら)」は、かつて熊本県に実在し、2008年5月に熊本地裁に破産を申し立てて、86年の歴史に幕を閉じた建設会社だ。負債総額は子会社も含め、56億5000万円にものぼったという。
 同社が賃貸住宅建設の分野で全国的に名を知られるようになったのは、自社ブランドのマンション「優渾(ゆうこん)」の展開を始めてからだ。鉄筋コンクリートならでは「強さ」と「不燃性」「腐敗性」といった特徴を前面に押し出して受注を伸ばし、2007年5月期には、熊本中心部で投資用マンションの建築を相次いで受注したことが奏功し、101億7600万円の売上を計上した。一方で、「優渾」の全国へ広げるために、建設会社や設計事務所などを対象にした販売ネットワークを形成。賃貸業界内で一気に注目を集める存在となった。
 しかし、建築業界を取り巻く環境が悪化すると、金融機関からの借入依存度が高い企業体質が災いして資金繰りが悪化。10億円規模の第三者割当増資の要請をしたものの、再建には至らず、事業を停止した。「優渾」については、当時の経営陣が新たに設立した「株式会社優渾」が引き継がれた。多々良時代から販売を行っている会社も、まだいくつか残っている。
 「アタラシ」は本社のある大阪を基盤に、賃貸住宅の建設などを手掛けていた建築会社だ。販売不振により、2004年に約40億円の負債を抱えて民事再生を申請した。同社がウリにしていたのは、ユニット工法と呼ばれる工場生産のユニットを組み上げる賃貸住宅だ。内装や設備の大半を設置した状態のユニットを現場に移送して設置するため工期が短く、収益化が早い。また、移設も容易なため、相続で建物を分割しなければならないケースにも対応することができた。
 しかし、非常にユニークな工法で話題性はあったものの、受注は意外と伸びなかった。専門展示会などでは、トレーラーに載せられたユニットを一目見ようと、多くの人が集まっていた。
 ロングホームは、親会社である早川工務店が開発した、日本やアメリカなど世界10か国で特許を取得した特殊な建築技術「RC-Zシステム」を使った住宅・マンションをフランチャイズ展開していた会社だ。加盟店は全国で約220社にものぼり2007年8月期には、約33億8000万円の売上を計上していた。しかし、同年11月に早川工務店が経営破綻すると、そのあおりを受けて資金繰りが悪化。代表者の早川義行氏を解任するなどして事業続行の道を模索したものの、資金繰りの目処が立たずに破産した。
 「型枠職人不要」という、従来の鉄筋コンクリート建築の常識を覆した「RC-Zシステム」は、当時としてはかなり進んだ建築工法で、建築業界内でかなり高い評価を得ていた。それは、加盟店が220社もいたことからも容易に想像がつく。親会社の早川工務店は、建築基準法が改正されたことで受注が伸び悩んだことに加え、販売用不動産購入での借入金が重荷になって倒産したと言われるが、もし早川工務店がつぶれていなかったら、ロングホームは今頃、日本最大の建築ネットワークを築いていたかもしれない。
 「RC-Zシステム」は現在、「RC-Z家の会協同組合」が引き継ぎ。普及活動をお行っている。革新的な技術が、開発会社の倒産により消失しなかったことは幸いと言えるだろう。