住宅業界最新トピックス~半導体不足の中、東京都が太陽光パネル設置義務化へ~|住生活新聞 記者の目|住生活を支える新聞株式会社のWebマガジン
Pick Up

2022.06.13

住宅業界最新トピックス~半導体不足の中、東京都が太陽光パネル設置義務化へ~

住宅業界最新トピックス~半導体不足の中、東京都が太陽光パネル設置義務化へ~
品不足が加速化し、既存物件への設置が困難に!?

 東京都が2050年のCO2排出実質ゼロを目指すための取り組みとして、新築戸建や小規模ビルへの太陽光パネル設置義務化を検討しているというニュースは、本紙でもすでに取り上げた。今回は、義務化が実現した場合に予測される影響について、専門家などに取材した。
 新築物件への太陽光パネル設置義務化は、今年度中に新設される見通しだ。対象となるのは延床面積2000㎡メートル未満のマンションや戸建てなど。義務を負うのは施主や建物の購入者ではなく、建物を供給する事業者である点がミソだ。
 まず、義務化が実現した場合にどんな影響が出るかについてから考えてみたい。真っ先に思い浮かぶのが、住宅価格の上昇だ。太陽光の設置には当然、費用がかかる。費用は設置面積に応じて変動し、現在の相場は1kWあたり30万円前後と言われている。一般的な3~5kWの住宅の場合、90万~150万円程度になる計算だ。わざわざ言うまでもないが、この費用は事業者が一時的に負担する形になるものの、最終的に住宅の販売価格に上乗せされることになる。つまり、結局は消費者にすべての皺寄せがくるわけだ。おそらく、消費者の負担を軽減するための助成金制度などが設けられるだろうが、それでも負担ゼロというわけにはいかないのではないか。しかも太陽光パネルは、定期なメンテナンスが必要だ。耐用年数を考えたら、最低でも20~30年間はメンテナンス費を負担し続けなければならない。これでは、都内で家を持つことはますます高嶺の花になってしまう。
 そもそも、太陽光パネルの設置を義務化したところで、本当に2050年にCO2の排出量を実質的にゼロにすることはできるのだろうか。環境問題に詳しい専門家は、

「試算では都内の住宅のうち85%に太陽光パネルを設置できるという。だが、マンションが密集する都内では、例え太陽光パネルを設置しても、期待ほどの発電量を得られない家の方が多いのではないか」

と指摘する。
 事業者への影響も気になるところだ。ある住宅会社の社長は次のように話す。

「家は値段が上がればそれだけ売るのが大変になる。販売に時間がかかればそれだけ資金繰りが大変になるので、倒産する事業者もでてくるのではないか」

 一方で、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を指摘する声もある。ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して以降、世界は極端な半導体不足に陥っている。半導体生産に必要な希ガスやレアメタルなどの原材料の一部に、ロシアやウクライナへの依存度が高いものがあるためだ。結果、半導体を使用する住宅設備機器の供給が滞る事態が生じている。最近、よくニュースで取り上げられている給湯器問題も半導体不足が大きな原因だ。
 実は太陽光パネルや蓄電池にも半導体が使われている。今のところまだ、給湯器ほど大きな問題にはなっていないものの、太陽光パネルも若干ながら生産に遅延が生じている。もしこのまま半導体の生産が回復しないうちに太陽光パネルの設置が義務化されれば、どんなことが起こるか。遅かれ早かれ太陽光パネルも品不足になり、事業者は家を完成させることができなくなる。設置が義務付けられている以上、ないまま販売することはできない。販売できなければ売上は上がらず、下請けへの支払いもできなくなる。そうなれば下請をも巻き込んで連鎖倒産するしかない。ウクライナの情勢が早期に決着したとしても、すぐに状況が回復する見込みは低い。国際情勢に詳しい専門家は、

「半導体不足は世界的な問題。日本だけいち早く供給が回復するはずがない。おそらく正常な状態に戻るまでに1年から1年半近くはかかるのではないか」

と話す。つまり、今すぐ状況が好転したとしても、半導体の供給が回復するのは早くても来年の夏前後になるというわけだ。実際には、ウクライナ情勢が決着しそうな気配は今のところなく、半導体不足はさらに長引きそうだ。当然、既存物件に後付けで太陽光パネルの設置を提案しているリフォーム業者への影響もあるだろう。
 果たして、今の状況で太陽光パネルの設置を義務化する必要はあるのだろうか。もちろん、将来的には必要な措置かもしれない。だが、状況を見極めずに大義名分だけを掲げた施策を実行すれば、必ずどこかに皺寄せが行くことになる。今回の件では、消費者や事業者だ。今後の動向に注目したい。